ツーリングからの帰り、公園に寄る。
夜の公園でブランコに乗り、二人でビールを乾杯する。
7、8缶ほど空けた頃、ヤーヌオがブランコをこぎながらポツリと言う。

ヤーヌオ「実を言うとさ、僕は小さい頃から、シャオチン以外に友達がいなかったんだ。
だから、嫌なことや辛いことがあったりすると、ブランコに乗ってた。
高い所までこぐと、悩みが吹き飛んでいく気がして・・・。」
ズーフォンが優しく言う。「これからは、俺が悩みを聞くし、ブランコにも付き合う。」
ヤーヌオが「本当?」とうれしそうに聞くと、ズーフォンは、うんうん、とうなずいた。
ヤーヌオ「約束だぞ。」ビールで酔っ払ったのか、頬が赤い。
今は男である事を忘れて、足が内股になっている。
ヤーヌオ「でも・・・。
僕の悩みや苦しみは、お前がいるおかげで発散できるけど、ジャールイ兄さんの苦しみには気づいてあげられなかった。」
ズーフォンは黙って聞いている。
ヤーヌオ「ジャールイ兄さんは、友達を裏切るような人じゃない。すごく優しくて、動物にも愛情を注いでいる。
なのに僕達を傷つけるなんて・・・」
ちゃんと耳を傾け小さくうなずくズーフォン。
ヤーヌオ「なぁ、ズーフォン。どう思う?」
ズーフォン「お前がジャールイを信じるなら、俺も信じる。」
ヤーヌオ「僕を信用してるの?」
「ああ。」ズーフォンはヤーヌオを見て、当然という顔をした。
ヤーヌオ「何でも信じてくれる?」
力強く答えるズーフォン「勿論。」

ヤーヌオは申し訳なさと不安が混ざった顔でうつむく。「ごめん。」
ズーフォン「なぜ謝る?」
ヤーヌオは弱々しく言う「それは・・・お前に黙っている秘密があるから。」
ズーフォンは、ちらっとよそを向く「その秘密を今打ち明けるのか?」
ヤーヌオ「この秘密は・・・。
僕が26歳の誕生日を迎えるまで待ってくれないか?」
ズーフォンは大きなため息をつく「26歳になるまで言えないのか?」
ヤーヌオはコクンとうなずいた。
ズーフォンは、秘密に年齢制限が含まれている事が意外という顔をした。
ヤーヌオは辛そうに言う。「多くの人が、この秘密を守るために苦しい思いをしてきた。
僕にとってこの秘密を守る事は、もう単なる制約じゃなく、責任なんだ。」
ズーフォンを見つめる「でも、いつかお前がこの秘密を知っても、僕を責めないで欲しい。」
声が震えるヤーヌオ「怒らないでくれる?」
ズーフォンは真剣な顔で見つめてくれる。
ヤーヌオは目に涙を溜めた「そうでなきゃ、あまりにも辛すぎるから。」
ズーフォンは誓う。「わかった。約束する。その時は、怒らないよ。」
ヤーヌオの顔が明るくなる「本当?」
ズーフォンは柔らかな笑顔で微笑んだ。
彼に手を伸ばすヤーヌオ。
ズーフォンは手を握ってくれた。
「お前は優しいな。」
ヤーヌオは、手を繋いだまま、ブランコを漕いだ。


就寝前。
ベッドに腰掛けヤーヌオは考える。
自分が女だとズーフォンにどうやって告白しよう。
とりあえず手紙を書くことにした。
机に向かう。
小さくため息「・・・。」

子楓

僕は女だ。正真正銘女性なんだ。
ごめん。
面と向かって言う勇気はないから、手紙を書くことにしたよ。
お前の目を見たら、もう兄弟じゃない とは言えない。
よく26年も秘密を守れたなとお前は言うかもな。
最初の25年265日はどうって事 無かったよ。
男だろうが女だろうが、僕にとって大差はない。
両親が安心するなら孤独でも構わなかった。

でも、お前に出会ってからの100日は大変だった。
誕生日が近づくにつれて、段々怖くなったんだ。
なぜ怖いのか最初はわからなかったけど、最近やっと自分の心が見えてきたよ。

それはお前が気になるから。

お前を・・・愛しているから。

悔いのない人生なんてつまらない。
出会えてうれしい・・・心から。

亞諾

ヤーヌオはその手紙を白い封筒に入れ、封をして、「杜子楓様」と書いた。
ほっと力を抜く。正直に書けたと小さく微笑んだ。


社長机の前に、母と妹が座っている。
ズーフォンが社長室に呼び出したわけだが、話しを切り出せない。
ファイルを手に持ちながら、何かを言いかけては、止める。
フォンチェは眉間に皺を寄せ、ズーハンは痺れを切らした「兄さん。呼び出しておいて、いつまで待たせるの?暇じゃないのよ。」
ズーフォンは、それでも尚ためらっていたが、
二人に向き直り「母さん、今日は大事な話があるんだ。実は・・・」と話をしようとする。
と、LINEが入った。ヤーヌオからだ。
『 おじさんを連れて来た。オフィスが見たいって。』
ズーフォンはちらっと母と妹を見る。
そしてヤーヌオに「OK」と打った。


フォンチェ「話って何?」
ズーフォン「会わせたい人がいる。」
フォンチェは( まっ、ズーフォンに恋人が?)と嬉しそうな顔になり、
ズーハンは(えっ?ヤーヌオじゃないの?)という顔をした。

グァンジュー「ズーフォンのオフィスか。」
ヤーヌオ「はい。ご感想は?」
グァンジュー「綺麗だな。噴水にも近いから、いつでも見に行ける。便利だな。」
ヤーヌオは笑顔で答える。
「広々として快適ですよ。」
社長室に着いた。

ズーフォンが立っている。
その横に、美しい女性とその女性の腕につかまる娘が立っていた。

グァンジューには全く見覚えのない二人だが、
ズーフォンとヤーヌオから、妻と娘がいると聞いている。
戸惑っているとヤーヌオに「おじさん。」と促され、二人の前に進み出た。
困った顔をしながら「こんにちは。」と言う。
突然、ズーハンが わっと泣き出しグァンジューに抱きつく「父さん┈┈!会いたかったぁ┈┈!うわ〜ん!」
グァンジューは、どうしよう・・・という顔をしながら、ズーハンの肩をよしよしと叩いてあげる
グァンジュー「そうか。」
フォンチェがズーハンに「もう泣かないで」と優しく言い、グァンジューから離す。
フォンチェは落ち着いて言った「聞いたわ。
記憶喪失だって。」
グァンジューは、やはり困っている。
フォンチェ「いいの。無事なら。
記憶がなくてもこれからは一緒よ。
私がついている。」
ズーハン「父さん。家に帰ろう。」
グァンジュー「俺は・・・今、住んでいる家がある。俺を気にかけてくれる人も。
だから簡単に居を移すわけにいかない。男であれば、誰でもそう考えるはずだ。」
ズーハン「だけど、私達の・・・!」
フォンチェはそれを止める。
ズーフォンがズーハンを後ろに下がらせ、
母が話しやすいようにした。
「わかったわ。」フォンチェは笑顔でうなずく。けれど小さな涙をこぼしながら
「でも、会いたくなったら、行ってもいい?」と聞いた。
グァンジュー「ありがとう。礼を言うよ。
俺は君達を忘れてしまったのに、こんなに親切に。
早く君達の事を思い出せるよう、努力するよ。」
フォンチェは「焦らないで。いいの。
時間はあるわ。」と笑ってから、グァンジューの右手をそっとぎゅっと握り両手で包み込んだ。


フォンチェ「私達は30年連れ添った。忘れたのだとしても、あなたに非はないわ。私が至らなかったの。」
グァンジューは、その言葉に驚きフォンチェの顔をじっと見る。
フォンチェは改めてグァンジューを眺めて、その頬に手を添える。
「7年も経つのに相変わらず素敵ね。」
緊張するグァンジュー。
彼の手をぽんぽんと叩き「つい・・・。ごめんなさい。驚かせたかしら。」
涙を拭いながらフォンチェはヤーヌオを見る「ヤーヌオ。協力してくれて、ありがとう。」
ヤーヌオ「いいえ。」
フォンチェ「彼を送ってあげて。」
そう言いながらも、帰ろうとする夫の手を離せない。
グァンジューは、握られた手を抜き、軽く会釈して社長室を出ていった。
ヤーヌオもフォンチェに頭を下げ部屋を出た。
ズーハンが泣きながらフォンチェに抱きつく
「母さん〜!え〜ん!」
フォンチェ「ズーフォン。今度改めてヤーヌオにお礼をして。」
ズーフォンは泣いている二人を包むように抱きしめ「必ず」と言った。
母と妹を労りつつ、やっと家族が揃った事に少し安堵した。