飛鳥side






クッションを抱えてソファの上で蹲り、時計を見つめる。


秒針がせわしなく動いていて、心が落ち着かない。


57、58、59。


3つの針が同じ向きを指した。




それと同時にクッションを手放し、長く息を吐く。




どうやら私は20歳になったらしい。


全く実感は湧かないけど。






「20歳ねぇ」












「あれ、過ぎちゃったのか」






呑気なことを言いながらバスタオルで髪を拭き、のそのそとこっちに近づいてくるあいつ。






「遅い」


「ごめんって」






ビシャビシャな髪のまま、ソファに座る私に後ろから抱きついてくる。


あーあ、絶対パジャマ濡れたよ。






「お誕生日おめでとう」


「ん、ありがとう」






後ろから回された温かい手を握れば、ふふっと奈々未が笑った。






「珍しいじゃん、どうしたの?」


「……誕生日だから」


「理由になってないよ」






うるさい、そんなことは分かってる。


でもいいじゃないか、ちょっとくらい素直になったって。






「まあいいか、たまにはそんな日があっても」


「うん」






ほら、何も言わなくてもなんだかんだ言って分かってくれる。


そういうところが好きなんだ。






「そうだ、20歳だしお酒でも飲んでみる?」


「え?ああ……」






ちょっと興味はある。


でも。






「しーさんと約束しちゃったからなぁ」


「サシ飲みしたいってやつか」


「そうそう」


「じゃあ辞めとこ」






そう言うと、するっと腕を外してキッチンへ向かった。


冷蔵庫が開く音がして、ガタガタと物が触れ合う音がする。






「私は飲むけどね」






声がした方に振り向くと、お酒の缶を持ってなぜかドヤ顔な奈々未。






「あっそ」


「冷たっ」


「いつも通りだよ」






20歳の飛鳥ちゃんは冷たいなぁ、なんて言いながらお酒を自分の喉に流し込んでいる。






「ねえ」


「なに?」


「美味しいの?それ」






お酒を飲むと顔が赤くなって、フラフラして、挙げ句の果てには飲み過ぎると翌日気持ち悪くなるらしい。


そんなものをなんで大人は馬鹿みたいに飲むんだろう。


興味はあるけど、別に毎日飲みたいとかはならないと思ってる。






「知りたい?」


「うーん……」






缶を持ったまま、どかっと奈々未が隣に座った。






「教えてあげようか」


「え、いや、今日は飲まないよ?」






約束しちゃったし。






「飲むんじゃなくて、教えられただけならいいでしょ?」


「はあ?何言って……っ!」






唇が合わさって。


ぐっと開かれた口から液体が流れ込んでくる。


苦い、甘い。


くらくらする。


いつもより力が入らなくて、目の前のTシャツを掴むことしかできない。






「もうちょっと教えてあげる」






離れたと思ったら、缶の中身を口に含んでまた合わさる。


溢れた液体が顎を伝って流れる。


私の口の中は奈々未に混ぜられていて、もうぐちゃぐちゃ。






「どう、美味しい?」






理不尽なことを言ってこっちを掻き乱すだけ掻き乱して、そっちは涼しい顔をしている。


私だって大人になったんだ。


いつまでも上だなんて思わせない。






「まだ分かんない」






襟を引っ張って、自分から短く合わせる。


ほんのちょっとだけ、奈々未の頬が赤くなった気がした。






「じゃあしょうがないね」


「わっ!」






優越感に浸ったのも束の間、私の体は完全に宙に浮いていた。






「一晩中かけて教えてあげるよ」






いつもよりも近くにある奈々未の顔が意地悪く笑う。






「20歳の飛鳥、いただきます」






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齋藤飛鳥さん、お誕生日おめでとうございます!


今回は20歳ですからね、もう1つ書きました!

22時にあげます

お相手は投票の候補にいた方達です