東公園のトイレに花子さんが出るという噂がたってからもう1か月になる。女子トイレの右から3番目。ノックは3回。「花子さんいらっしゃいますか?」というのを3回繰り返す。そうすると、中から「は~い」というかすかな声が聞こえる。そのドアを開けると、おかっぱ頭に白いシャツ、赤いスカートの花子さんが現れるのだ。「は~なこさん、遊びましょ。」というと、花子さんは「何して遊ぶ?」と聞いてくる。ここで、ふざけてはいけない。ふざけて「首絞めごっこ」などというと、本当に首を絞められて死ぬ。無事帰るには「折り紙」と言わなければならない。すると花子さんは「何色の紙がいい?」と聞いてくる。「赤い紙」と答えると血だらけになって死ぬ。「青い紙」と答えると全身の血液を吸い取られて真っ青になって死ぬ。逃げ帰るには「ごめんなさい。間違えました。」を3回言って、髪につけているものを投げつけるといい。・・・そんな噂だ。

 日曜日、ケイコとヨシエはうわさを確かめようということになった。もちろん噂なんて信じていなかったが、一応念のため、髪にはカチューシャとリボンを3つほどつけた。東公園までは自転車で10分ほどだ。不思議なことに芝生広場にも遊具にも人っ子一人いない。いつもならたくさんの子どもが遊んでいるのに・・・・。「なんか、やばくない?」 ヨシエはびびっているようだ。「ね、やめよ。ね、あたし、帰るよ。」 

 ヨシエはそう言って帰ったが、ケイコはどうしても噂を確かめたかった。右から3番目のドアをノックする。中から「は~い」というかすかな声。ドアを開けると、花子さんがいた。「本当にいたんだ!」 ケイコは急に怖くなった。「何して遊ぶ?」「折り紙」。「何色の紙がいい?」 頭が真っ白になった。「なんて答えるんだっけ?」 「何か、言わなくちゃ。」 もうパニックだった。「え~と、あの、あ、白です。白い紙ください。」 そう言ったとたん、花子さんの顔がぐにゃぁっとゆがんで、口が耳まで裂けた。そして「そうかぁ、白かぁ」という声が聞こえた。

 ケイコは必死だった。「ごめんなさい、間違えました。ごめんなさい。ごめんなさい。」といって、髪の毛のリボンを投げつけ、逃げ出した。そして、自転車を死に物狂いでこいだ。・・・・「あ~、こわかった。もうだいじょうぶかなあ?」と思ったとたん、急に自転車のペダルが重くなった。下を見ると女の子の足が見える。何かが後ろに乗っている・・・・。首筋に温かい息がかかった。耳元で「今度はあなたが花子さんになる番よ。」という声が聞こえた。

 もうだめだ!・・・そう思ったとき、『が~ん』という衝撃に襲われた。どうやら電柱に激突したらしい。・・・・結果的には、それがよかったのかもしれない。・・・・花子さんは消え、何事も起こらない。転がった拍子に膝小僧をすりむいたが、ただそれだけだ。・・・・それ以来ケイコはトイレに入ってもノックは2回までと決めている。