新しいアパートに引っ越してしばらくして、夜、押し入れの奥の方から、何か声がするのに気付いた。よく聞こえる日と聞こえない日があるんだが、どうも子どもの泣き声のような気がする。

 

 夜は怖いので、次の日の朝、友達のタカシに来てもらって、押し入れの戸をそっと開けてみた。布団や段ボール箱などを全部出してみたが何もない。

 「気のせいかなあ」と言って荷物をしまいかけているときにタカシが変なことに気付いた。「おい、なんか、こっちがわの押し入れ狭くないか?」「なんで、ここに壁があるんだろう。」

確かに、そういわれてみてみると左側の押し入れだけが不自然に狭い。ベニヤ板の壁が手前側に迫ってきている。コンコン。ノックをしてみると、何か空洞のような音がする。

 

 大家さんを呼んで聞いてみると、新築の時はこんな壁はなかったという。大工さんを呼んでその壁を壊してもらうことになった。「白骨死体でも出てきたらどうしよう。」とおもっていたら、壁の向こうに空っぽの空間が現れた。何もないただの空間。・・・ただ、その空間は真っ赤だった。

 

 その空間の床・天井・壁一面に赤いクレヨンで

 

 「おかあさん、ごめん」

 「おかあさん、ごめん」

 「おかあさん、ごめん」

 「おかあさん、ごめん」

 「おかあさん、ごめん」

 「おかあさん、ごめん」

 

  とびっしり書き込まれていたのだ。

 

 もちろん、ぼくはそのアパートからすぐに引っ越した。