東公園の横の交差点に小さな女の子の幽霊がでるという話はこのあたりの子どもならだれでも知っている。この交差点で交通事故にあって死んだのだが、成仏できず「一緒に遊ぼう」と話しかけてくる。うっかり一緒に遊ぶと、そのまま地獄に連れて行かれてしまう。そんなうわさだ。

 

 

その日、ユカは東公園の横の交差点で信号待ちをしていた。すると足元にピンクのドッジボールが転がってきた。ふと見ると小さな女の子がユカを見上げていた。「わたし、まりえ。おねえちゃん、いっしょに遊ぼう!」 ユカも当然幽霊のうわさは知っている。でも、目の前の女の子はすごくかわいくて、とても幽霊には思えなかった。「ちょうど今ひまだし、ちょっとぐらい遊んであげようかな」とも思ったが、地獄に連れて行かれてはたまらない。「ごめんね。お姉ちゃん、ちょっと用事があるから・・・」 ユカはボールをわたしながら断わった。「こんなところでボール遊びしたらあぶないよ。」そう言ってユカは信号を渡った。うしろから「おねえちゃ~ん」という声が聞こえた。

 

夕方、リビングで宿題をしていると、勤めを終えた母が興奮しながら帰ってきた。「今、東公園の交差点で交通事故があったのよ。小さな女の子がボールを追いかけて車道に飛び出して・・・。トラックに轢かれて死んだんだって。」

 

「えっ? うそ!」 その女の子は「まりえ」にちがいない。ユカは激しく後悔した。「まりえ」は幽霊なんかじゃなかった。あのとき私が遊んであげていれば事故になんかあわなかったのに。そう思ったユカの耳元で小さな声がした。「わたしはここにいるよ。いっしょにあそぼう!」 「わたしはここにいるよ。いっしょにあそぼう!」 ユカは夢中で外に飛び出した。東公園の交差点に着くとユカの足元にピンクのボールが転がってきた。「まりえ」だ。「まりえちゃん。あなた、交通事故にあって死んだんじゃ・・・・。」 「わたしはここにいるよ。いっしょにあそぼう!」 ああよかった。事故にあったのはまりえちゃんじゃなかったんだ。ユカは心からほっとした。「うん、さっきはごめんね。お姉ちゃん、遊んであげるよ。ここは車が来て危ないから公園の中で遊ぼうね。」 ユカの言葉に「まりえ」がうれしそうにうなずいた。

 

その日、そのときからユカの姿は町から消えた。両親は警察に捜索願を出したが、手掛かりは全くなかった。東公園の交差点に幽霊が出るといううわさもだんだんとわすれられ、自然に消えてなくなった。