西町の町はずれの踏切。さほど車の通りが多くないのに交通事故が多発している魔の踏切だ。しかも、そのほとんどが死亡事故である。ついこの間も、警報が鳴り、遮断機が下りているにもかかわらず、踏切内に乗用車が侵入し、下り電車と激突した。

 うわさによると、30年ほど前に、この踏切で足の悪いおばあさんが電車にひかれて死んだ。それ以来この踏切で事故が起きるようになったという。

 気味が悪いので、町の人はこの踏切をほとんど使わないようにしているのだが、その日、私はちょっと急いでいた。不覚にも寝過ごして約束の時間に遅れそうだったのだ。この踏切を使えばかなり近道になる。別の踏切を使うよりは10分ぐらいは早くつけそうだ。そう思った私は「魔の踏切」を通り抜ける決心をした。

 踏切の両側は開けた畑で見通しもよく、こんなところで事故が起こるということが不思議だった。でも、用心に越したことはない。私は踏切に近づくとスピードを落とした。ちょうどそのとき、カンカンカン・・・・と警報機が鳴りだした。登り電車が来ることを知らせる矢印が点滅し、遮断機が下り始めた。電車はまだ遠くにいて無理すれば通り抜けることができそうだったが、私はブレーキを踏んだ。

 ところがどうしたことだろう、車は停車せずにゆっくりと前に進んでいる。本当に、人が歩くほどのスピードでゆっくり踏切内に進んでいくのだ。私はあわててサイドブレーキを引き、ブレーキペダルを力いっぱい踏みつけた。だが、車は止まらない。向こうから電車が近づいてくる。

 何かに押されている! あわてて振り向くと、血だらけの老婆がにたぁと笑いながら、車を前へ前へと押し出している姿が目に入った。