ユウジとマナブはこわいもの知らずの大学2年生。その夜はあいにくの雨だったが、幽霊に会いに出かける予定をたてていた。行先は東京の奥多摩。有名な幽霊トンネルまでドライブする。「幽霊ってさあ、白い洋服を着た長い髪の女だろ?」「ああ、トンネルの中で交通事故で死んだらしい。地縛霊だな。」 「どんな感じででるのかな?」 「急に車の前に飛び出すんだって。それで急ブレーキかけて止まるんだけど、誰もいないんだ。」 「ふ~ん。なんかよくある話だな。」
雨はだんだんひどくなってきたが、目的地が近づくにつれ2人のテンションは上がってくる。 「幽霊出たらさあ、ネットにアップするぜ。」 「写真撮れたらいいじゃん。」
そのトンネルは、カーブを曲がると突然現れた。トンネルの中ほどに一つだけオレンジ色の街灯が輝いている。噂ではこのあたりで出るらしい。ユウジはアクセルを踏み込んだ。車は加速をつけて街灯のわきを通り抜ける。・・・・なにごとも起こらない。ただ激しい雨の音が「ザーザー」と響いていた。 車はやがてトンネルを抜け展望台の駐車場に出た。「でなかったな。」 「やっぱ、ガセ?」 「もう一回行ってみる?」 「ああ、このまんまじゃね。」 車はUターンしてまたトンネルに入る。 オレンジ色の街灯の下を通る・・・・何も起こらない・・・・。雨はますます激しくなってきた。
3~4回往復してみたが、幽霊は出ない。不思議なことに対向車にも全く出会わない。だんだん雨が強くなって、特にあのオレンジの街灯のあたりでは、激しい雨が車の上の落ちてうるさいくらいだ。
その時だった。急にマナブがおびえだした。何か叫んでいる。「え?何?」雨の音が激しくて聞き取りずらい。「おい、もう帰ろう。」マナブが怒鳴っている。 「えっ? なんで?」 「何でもいいからトンネルから出ろよ。」 「どうしたんだよ。なんか見たの?」 マナブは青白い顔をしてがたがたふるえている。 「・・・まあ、いいけど。」
車はトンネルを抜けて町に戻った。ファミレスに入ってようやくマナブも落ち着いた。 「どうしたんだ? 急に?」 ユウジが聞くと、マナブはおびえた目で言った。
「おまえ、あれが聞こえなかったのか?」
「あれって・・・。別に何も・・・。雨の音がうるさかったし・・・」
「聞こえてたんじゃないか。」
「え? 聞こえてたって?」
「雨、雨の音だよ。」
「?」
「おれたち、トンネルの中にいたんだぞ!!!」
僕の背筋に悪寒が走った。