みなさんは猫と犬、どちらが好きですか? 将太君は典型的な犬派です。ペスという名の雑種の白い犬を飼っていますが、ぺスはペットというよりも、もう家族という感じです。猫派の人に言わせると「犬はなれなれしすぎてうっとおしい」といいますが、そんなことはありません。大きな尻尾をふりながらぺろぺろと顔をなめられたりしたら、もう、いやなことなんていっぺんに吹き飛んでしまいます。それに比べて猫はどうでしょう。呼んでもこないし、自分が気に入らなければぷいっとどこかへ行ってしまいます。だいたいあの目つきが気に入りません。

 ある日のこと、学校の帰りに将太君たちは野良猫の集団に出くわしました。ゴミ捨て場の近くに7~8匹の猫が集まっています。「あっ。あの灰色のでかいやつ。この辺のボス猫だぜ。」 「あいつ、このあいだうちの庭にうんちして逃げたんだ。」 「ああ、やなやつだよな。」 悪口を言っているのがわかるのでしょうか、猫はものすごい表情でこちらを睨みつけています。「猫のくせに生意気だよな。」 「追い払ってやろうぜ。」 将太君は足元にあった大きめの石を手に取りました。そして、ボス猫めがけて投げつけました。

 その瞬間、みんなは「あっ」と息をのみました。石があのボス猫に命中したのです。ドスッと鈍い音がしてボス猫が倒れました。おなかのあたりから、はらわたのようなものが飛び出し、顔も血だらけです。ほかの猫たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去りました。「えっ? ほんとにあたっちゃった!」将太君は自分自身でびっくりしました。あてるつもりなんてなかったのです。ただ、石で脅かしてやろうと思っただけなのに・・・・。「おい、あの猫、死んでるよな。」 「ああ、全然動かないもの・・・。」 「ど、どうする?」 {どうするっていっても・・・。」 「おれ、しらね!」 「石投げたの将太だもんな。」友達はそう言いながら逃げ出しました。 「おい、まってよ~」 将太君もそういいながら走り出しましたが、そのとき血だらけの猫がピクリと動いたような気がしました。

 その夜のことです。窓の外から猫の鳴き声が聞こえます。「ナ~ゴ、ナニュア~ゴ」というように聞こえます。そして「ペチャ、ピチャ」と何かをなめるような音もします。将太君はおそるおそる外をのぞきました。門のところにいるのは、あの猫です。血だらけの顔をして、飛び出たはらわたをなめながらこちらをにらんでいます。将太君は恐ろしくなってカーテンを閉め、布団を頭からかぶりました。

 次の日の晩もその猫はやってきました。昨日よりも大きな声で鳴いています。「ナ~ゴ、ナニュア~ゴ」 「ペチャ、ピチャ」という音も大きく聞こえます。こわごわのぞくと、猫は将太君の寝ている部屋のベランダにいました。「ぎゃっ」という将太君の声にお父さんが駆け込んできました。将太君は猫のことを話しましたが、お父さんが見ると猫はどこにもいませんでした。「悪い夢でも見たんだろう。」 お父さんはそう言いました。

 3日目の晩のことです。今度は猫の声が部屋の中から聞こえます。「ナ~ゴ、ナニュア~ゴ」 「ペチャ、ピチャ」 猫は布団の上にいました。血だらけの顔で将太君を見下ろしています。金縛りというのでしょうか。将太君は身動きできませんでした。必死に助けを呼ぼうとするのですが声になりません。猫のするどい爪が将太君のほほをかすりました。

「もうだめだ!」そう思った時です。ドアの外からぺスの鳴き声がしました。グワン、グワンと吠えながらぺスは猫に襲いかかりました。「ニャギャ~」という悲鳴とともに猫は空中に消えました。ぺスはしばらくの間、窓の外に向かって吠え続けましたが、その胸は真っ赤な血で染まっていました。

それ以来というもの、猫はやってこなくなりました。将太君は猫が嫌いというよりも、猫が苦手になりました。将太君のほほに引っかかれたような細い傷があるのも、将太君が猫の姿を見てこそこそ隠れるのも、実はそういうわけなのです。