中学生活ですっかり人間不信になってしまった弟は(中学2年以降は地元の友だちだった子達も弟と距離をとるようになりました)勉強もせず、ひたすらゲームばかりをするようになりました。

高校生活がつまらなかった私も、帰宅後は毎日のように弟の部屋で一緒にゲームをしていたものです。

お互いに人間関係がうまく築けず、かといってお互いの心の内を話す、という感覚もなかった私達は、いつも並んでただゲームをしていました。

でもその時間が退屈でしんどい毎日の中で、(祖父が居なくなり祖母が認知症になってから)唯一安らげる時間でした。

弟も私も会話の中でパッパッとテンポよく返事ができるタイプではなく、頭の中で一度考えてから言葉にして発するので、普通の人の中にいると「鈍い」「ノリがわるい」「暗い」人間に見えるのだと思います。

また、相手の表情や言葉の裏側を読む、という力が弱く、言葉の通りに受け取り生真面目に返すので変な顔をされることも多く、人と会話をすることが恐怖でしかありませんでした(これは私のことですが、恐らく弟もそうだったのだと思われます)(ただ、私の場合は優しい友だちがいて、彼女たちが裏表の無い態度で接してくれたため弟ほど酷くはなりませんでした)

現在の話になりますが、特に弟は中学時代の傷のため、言葉に出す事については本当にいまだに慎重で、でもじっと待っていると思いも寄らないアイデアだったり前向きになれる言葉をくれるのです。
時間はかかりますが(質問の返事が来るまでに2時間かかることもあります)、時間がかかった分だけ目から鱗の視点を教えてもらえる事もあるので、考えの浅い私はいつも感心させられます。
また、弟の発言は誰の事も傷付けません。
優しさがいつも詰まっています。
我が弟ながら尊敬してやみません。

(なので、言葉にしなくても、私は弟が好きですし、弟も私のことは同士として認めてくれているという感覚があります)

話は戻りまして、
通信制の高校に進学した弟は、課題をやったりやらなかったり、平日は自分の部屋でゲームをし、登校日は必ず行くものの、友人と呼べるような人も作らず、ずっとひとりでした。

たまに鬱屈したものが溜まると、弟は突然叫び出して部屋や廊下の壁を殴り、ぶち抜いたりしました。

なるべく話し相手になろうと部屋に行くと、私の前ではおとなしくなり、落ち着きを取り戻すのでそのまま一緒にゲームをしました。

母親は弟になんとか友だちを作ろうと家庭教師を雇ったり、カウンセリングに連れていったり、登校日について行ったりしましたが、弟は次第に人間そのものに対してあまり関心を向けなくなってしまいました。

弟が人間に関心を持たなくなった時期というのは思い返すと、私が大学に進学してしばらくたった頃でした。
私は初めて心から笑える仲間と先輩に出会い、恋をし自分の生活に夢中になっていた頃でした。

自分の青春ばかりに夢中になって、弟への関心を向けなくなってしまった自分…を今は後悔しています。

いつも一緒にいた姉までもいなくなってしまった。

そう弟に思わせてしまったのではないか…と、
弟に悲しい思いをさせてしまったのではないか…。

あの時期、もっと私の世界に彼を引き込んでいたら…仲間に会わせていたら…と後悔する自分が消えません。

(直接本人に確認したわけでもなく完全に私の独りよがりですし、弟は本当に優しい人間なので絶対にそんな風に思ったりすることはない、と分かってはいるものの、私の中の勝手な罪悪感が消えないのです)


弟は、通信制の高校をなんとか卒業しましたが就職先もなく、進学もしなかった(家計が火の車でした)ので、家業を手伝うことになり、現在までそのまま働き続けています。


彼は職人気質で、彼が折る本はぴったりときっちりと揃っていて、お得意様から信頼も厚く、毎日コツコツと製本の仕事を父とふたりでしており、師匠だった父の腕を越え、弟しか出来ない仕事も出てきました。

なので、機械の扱いは(こだわり強すぎて調整に時間がかかる時もありますが)お手のもの。
父も母もすっかり信頼しています。

ただ、やはりコミュニケーションの能力が弱く、お客様との日常会話や交渉ができず、父がその役割をしており、事務的な仕事も弟はやる気はなく母がしている状態で、後を継ぐ気持ちは薄そうです(その話をすると黙り込んでしまうので彼の本心はわかりません。将来の事を考えるのを止めている印象です。私は夫が転勤族のため家業を手伝うのは難しいです)

両親は継ぐのは難しいだろうと言っており、弟は何となく親を手伝っている…という態度なので、父がリタイアした後はどうすればいいのか……と頭を悩ませている現状です。

母は、製本業者の仲間の会社で働かせてもらえればいいのではないか、と考えているようです。
(でもこれまで家族以外と仕事をせず、会話も挨拶以上は負担に感じる弟が普通の会社の中で働けるのか……と過保護なのでしょうが心配になってしまいます。以前、母方の親戚が遊びにきただけでストレスで片耳が難聴になってしまったので…悲しい)

弟が自立できるような支援をしたい、でも両親は現状維持を希望しており、弟自身も自分の事なのに他人事のような感覚でいるので(この先の事を話すと黙り込んでしまいます)どうしたらいいのかなぁ……と考えると、だんだんどん詰まりの気分になってしまい、私も考えるのを止めてしまうのですネガティブ


弟の人生は弟のもの。
だけど、現状では両親は弟を頼りに仕事をしているため離れる事もできず、彼の人生は両親の為に生きている状態に見えます。

もっと私が他の選択肢が増えるような提案が出来ていたら…(過去に同じ製本業で発達の遅い人に理解のある会社を紹介したりもしたのですが、父に阻まれました)弟は自分の人生を生きれていたのだろうかと考えてしまいます。

私は弟を犠牲にして、自分だけ気ままに生きているような気持ちになってしまうのです。

しかし、両親が居なくなった後はどうするのか。

母は「私達がいなくなったらあんたが弟の面倒をみるんだよ」といいます。

面倒をみる、という事ではないですが、私は一生を弟の事を見守って生きていこうと思っています。

弟が自立している想像が、確かに私も難しいですが、年々ゆっくりではあるものの、彼の中の成熟度が上がってきており、元々の優しさに加え、相手の気持ちを想像する力の幅がこの数年間で飛躍的に広がりました。
この数年、私の誕生日にはプレゼントを贈ってきてくれるようにまでなりました。
大声を出す事もなくなり、とても穏やかです。

言葉に出来ないだけで、心の中はとても豊かな人間です。

彼がここまでこれたのも、何だかんだありましたが、気長に付き合ってきた両親の賜物でしょう。私は何もしていません。

なので私が彼の将来についてわーわー騒ぐのも違うのかもな、と最近は様子を見ています。

私も両親も、弟の幸せを願っていることは同じです。

あまり干渉されるのを好まないという、私と性質が同じの弟には、月に1回会いに行ったりラインをしたりして私はあなたの味方だよ、というサインが伝わればいいなぁと思いつつ、連絡をとっている状態です。

弟が孤独を感じないように、
そんな風に思いながら接しています。




すみません、なんだかまとまりの無い話にまってしまいました。
弟の事になると、自分でも訳のわからないぐちゃぐちゃな気持ちになります。
なんとかしたい、でもどうしたらいいのかわからない。
専門家に頼りたい、でも両親はそれを嫌がります。
以前、発達障がい者支援団体の精神科医にも、弟の状態はとてもデリケートな状態なので、弟をいきなりこういう場所に連れていくのは彼にとって残酷なことになるから、とお話をされました。

どうしたら彼が自立できるのか 。
自分の人生を生きる喜びを知ってほしい。
だけど、それは私のエゴなのでしょうね。
きっと、弟に対して抱いている自分の罪悪感を軽くしたいだけなのでしょう。
自分勝手な人間です。


またしても暗くなりました真顔


次回は自分の話を書いて終わりたいと思います。

ここまでお付き合い頂きありがとうございましたにっこり