主人公:志田愛佳



欅坂女子高校に入学して数ヶ月、友達もそこそこでき高校生活にも慣れてきた。



織田・志田『『美味しい!』』

ねる『ほら言ったやろ?ねるお菓子作り得意っちゃけん』

織田『ねる本当に美味しいよこれ、もはやプロだね』

ねる『ありがとうオダナナ、もなはどう?』

志田『うん旨い!オダナナの言う通りプロ級だよ』

ねる『えへへ…ありがとう』



いつものように昼休みに織田奈那・長濱ねると喋っていると、教室に入ってきた小林由依がこちらに向かってきた

一瞬目があったため話しかけられるかもと少し身構えたが、その予想は外れた

小林『あの…織田さん…先生が放課後呼んでた』

織田『あっ小林さん、先生何の用だろ?』

志田『どうせ課題かなにかでしょ』

織田『心当たりがありすぎて…とにかくありがとう小林さん、お礼にお菓子食べる?』

そう言って自分の食べかけを差し出す。

志田『お礼に食べかけかよ!』

ねる『もし食べたかったら新品あるけど、小林さんいる?』

小林『ううん…大丈夫』

首を小さく横に振ったあと小林由依は自分の席に戻り、鞄から財布を取り教室から出ていった。



織田『小林さんって友達いるのかな…誰かと喋ってるのほとんど見たこと無いけど』

志田『そりゃ友達くらいいるでしょ…たぶん』

ねる『正直距離感じるよね…壁があると言うか、誰を呼ぶ時も"さん"付けやし』

志田『人見知りなだけだよ…たぶん』

織田『心配だなぁ…ちょっと話しかけてこようかな』

志田『大丈夫だって…たぶん』

ねる『やけに止めるけど、小林さんのこと嫌いと?』

志田『いや、そういうわけじゃないけど…』

織田『とにかく、私はいつか小林さんから"奈那"って呼ばれるくらい仲良くなってみせる!』

志田『いや、そもそもオダナナは誰からも"奈那"なんて呼ばれてないじゃん』

ねる『確かに』

織田『それを言ったら志田だってそうでしょ』

志田『私の場合は自分の意思で呼ばれてないだけだから』

ねる『名前で呼ばれるのが恥ずかしいって、"愛佳"って可愛くていい名前と思うけど』

志田『だからだよ、"愛"ってキャラじゃないでしょ』

織田『まぁ確かに』

ねる『もなは男らしくてイケメンキャラやけんね』

織田『そうそう!入学してから、一体何人の女の子を泣かせてきたことか』

志田『人聞きの悪いこと言うな』

ねる『でも実際結構な数の女の子に告白されたやろ?』

志田『まぁ多少は…』

織田『しかも全員の告白を彼女がいるからって断ってたし、ていうかそろそろ彼女に会わせてよ』

志田『まぁ…いつかね』

ねる『写真とか無いと?』

志田『それもいつかね』

織田『ねぇ志田…その彼女ってもしかして二次元じゃないよね?』

志田『ちゃんと現実にいるわ!』


キーンコーンカーンコーン


昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったので、急いで移動教室へ向かう

次の化学の授業は席が自由のため毎回早い者勝ちの争奪戦になるからだ。

もうすぐで教室に着くというところで、自分の手に教科書と筆箱しか無いことに気づく

志田『あっ教室に課題ノート忘れた』

ねる『あっねるも』

織田『もう…じゃあ私は先に行って席確保しとくね』

志田・ねる『『よろしくー』』

持っていた教科書と筆箱を織田に預け、ねると教室へ戻った

教室へ戻ると授業開始5分前にもかかわらず、誰も残っていなかった

志田『あったあったノート、ねるは見つかった?』

ねる『ううん…見つからん、持ってきたはずなんやけど…もなは遅刻するけん先行っとってよかよ』

志田『私はロッカーの方探すから、ねるはもう一度机と鞄見てみな』

ねる『でも本当に遅刻しちゃうよ』

志田『喋ってないで早く探すよ!』

ねる『…うん、ありがとう…もな』


キーンコーンカーンコーン


志田『あぁタイムアップかぁ』

ノートを探して散らかったロッカーを片付けながら、この後どうしようかと考えていると

ねる『ねぇもな…そのまま聞いて…』

志田『ん?』

いきなりどうしたんだろ?

ねる『もなって誰にでも優しいよね』

志田『そんなこと無いよ』

背中越しにねるの足音が近づいてくるのが聞こえる

足音が止まると同時にふーと小さく息を吐く音がした

ねる『じゃあ…じゃあもなは私だけに優しいと?』

振り絞るように出たその言葉に振り向くと不安そうにこちらを見つめるねると目が合った

志田『…ねる』

ねる『もな…私の気持ち気づいとるやろ?』

そう言うとねるは潤んだ瞳から、涙が溢れる前に自らの指でそれを拭った

志田『ごめんねる…でも私彼女いるから…』

ねる『そんなの何回も聞いた…やけど…もなはいつもその事をはぐらかすけん、その度に嘘なのかなとか考えて…喜んだり…落ち込んだりして…』

志田『…』

ねる『本当のこと教えてよ…もな…』

志田『…』





??『愛佳!』





声に驚き振り向いた二人の視線の先には小林由依が立っていた

ねる『えっ?…小林さん?…ていうか今…名前…』

志田『違う…小林さんは関係ない!』

小林『もう限界だよ…愛佳』

志田『だって…でも…』

小林『長濱さんは…大切な友達でしょ…このままじゃ友達なくしちゃうよ』

志田『…』

ねる『どういうこと?』

小林『長濱さんお願い…愛佳を責めないで…』



小林は私たちが幼馴染みであること、中学から付き合ってること、そしてその事で志田を好きな子たちから嫌がらせを受けてたことを話した

辿々しくも丁寧に…



…話を終えると小林はゆっくり目を閉じた

志田『私が小林を守れなかったから…私が気付いてあげられなかったから、だからもう二度と傷つけさせないために周りには秘密にしようって決めた…』

そう、秘密にしようと決めたのに…

ねる『…そっか…小林さんだったのか…』

そう呟いたねるは私たち二人を交互に見つめた

志田『ねる…お願いだから誰にも言わないで!』

ねるは少し考えてから口を開いた

ねる『もなはこのままでいいの?』

志田『えっ?』

ねる『こんなの変だよ!好き同士なのに…付き合ってるのに…』

志田『でもしょうがないんだよ…私が小林を守らなくちゃ…』

ねる『それはもなの気持ちやろ?小林さんはどう思っとうと?』

小林の方を見ると彼女は真っ直ぐ私を見ていた

そしてそのまま私に向かって語りかけた

小林『私は…私は愛佳ともっと一緒にいたい…でも愛佳を守れるのは私だけだって思ってたから…』

志田『私を…守る?』

小林『嫌がらせだって…陰口言われたり無視されたりはしたけど、元々愛佳くらいしか友達いなかったしそれ自体は別にそんなに辛くなかった』

小林『でも愛佳がそれに気付いて…それからどんどん愛佳が壊れていって…それが見てられなかった…』

小林『ごめんね由依…私のせいで…って言って自分を責めて、そんなとき愛佳から秘密を提案されて…』

そうか…私たちはお互いに守ろうとしていたんだ…相手を…そして自分自身を…

小林『もう逃げるのはやめよう…私たち臆病過ぎたんだね…』

志田『うん、そうだね…今度何かあったときは二人で乗り越えられる様に…一緒に強くなろう!』

小林はうんと頷くとニコッと笑顔を見せ、腕を広げた

私が同じ様に腕の広げると、私より少し小さい彼女の体が腕の中にすっぽり収まった

ねる『もな、小林さん、大丈夫!今日からはねるが二人を守るから!…あとオダナナもね』

志田『ありがとう…ねる』



廊下からバタバタと走ってくる音が聞こえてきた

織田『あっいたいた、何してんの?先生怒ってたよ!』

能天気な織田を見ているとホッとする

志田『あっ忘れてた』

織田『まったくもう!小林さんも呼びに行ったっきり帰ってこないし』

小林『ごめん…』

織田『いや…小林さんは別に全然全く少しも悪くないから大丈夫!』

ねる『そういえばオダナナ、小林さんと仲良くなりたいって言っとったよね』

織田『そうだけど…なぜ今それを?』

ねる『私たち友達になったけん…ねっ?小林さん!』

小林『うん』

織田『そっか!じゃあ私も友達ってことで!』

小林『うん…よろしく』

織田『私のことは"奈那"って呼んでいいから』

小林『それはちょっと』

織田の圧に若干引いてる小林が面白くて少し笑いそうになった

ねる『あと、もなから話があるって』

志田『えっ?…あぁ…うん…そうなんだ…』

織田『なになに?いきなり改まっちゃって』

志田『オダナナ…実はさ…』



放課後、いつものように裏門の側にある木のベンチに腰掛けていると彼女がやって来た

愛佳『相変わらず時間通りだね』

小林『いつも思ってたんだけど、こんなところで私の部活が終わるのぼーと待つんなら愛佳も何か部活入ったら?』

愛佳『うーん部活ねぇ…まぁある意味この時間が私の部活みたいなものだから』

小林『…なにそれ』

愛佳『照れるなって』

小林『呆れてるだけだよ』

そう言いつつ小林は笑っている



愛佳『いやー今日は色々ありましたね、久しぶりに学校で"愛佳"って呼ばれたしさ』

小林『他の人からは呼ばれないの?』

愛佳『うん…というか呼ばないでって頼んでる』

小林『もういい加減自分名前なんだから慣れたら?』

愛佳『小林から呼ばれるのは平気なんだけどなぁ』

小林『…ふーん』

愛佳『他の人から名前で呼ばれると恥ずかしいのにさ…由依が名前を呼ぶだけで…別の感情に包まれる気がするんだよね』

小林『…なにそれ』

愛佳『照れるなって』

小林『呆れてるだけだよ』

そう言って小林はまた笑ってくれる



愛佳『それはそうといい加減友達作りなよ、クラスで無理なら部活でもいいからさ、そもそも吹奏楽部なのに一人でギター弾いてるから友達できないんだよ』

小林『じゃあ友達出来ないのは愛佳のせいだね』

愛佳『私のせい?』

小林『知らなかった?昔愛佳が私のギター誉めてくれたから…だからずっとやってるんだよ』

いきなりそんなことを言うもんだから動揺を隠しきれず

愛佳『え…あぁ…そうなんだ…へぇー』

小林『愛佳、耳真っ赤だよ』

愛佳『気のせいだよ』

小林『それに愛佳され居れば私は幸せだから』

愛佳『…』

小林『愛佳、顔真っ赤だよ』

愛佳『…もう勘弁して下さい』

やられっぱなしはしゃくなので仕返しを試みる

愛佳『私も小林のこと好きだよ』

小林『うん、知ってる』

少しの動揺もなしに、普通にありがとうと言われてしまった

愛佳『落ち込むなぁ』

ため息をついて頭を抱える

小林『ねぇ愛佳…さっき私のこと"由依"っ呼んでたの気付いてる?』

愛佳『えっ?うそ?』

小林『学校で話さなくなってから、呼んでくれなくなったよね』

愛佳『うん…学校で名前で呼んで付き合ってることバレたらって思って…だから二人の時も呼ばないようにしてたから』

小林『まぁいいんだけど…私は誰かさんと違って呼び名なんて気にしないから』

愛佳『そうですか』

ならばと思い小林の顔をじっと見つめる

小林『どうしたのいきなり?珍しく真剣な顔してるけど』

からかわれても小林の顔をじっと見つめ続ける

小林『何…?』

愛佳『好きだよ…』

小林『だから知ってるって…』





愛佳『…好きだよ…由依』





由依『…』

愛佳『どうだった今の?』

由依『…まぁまぁ…かな』

愛佳『ねぇ由依、顔真っ赤だよ』

由依『…』




顔を隠そうとする由依の手を優しく握り、そろそろ帰ろうかと歩き出す


ふと空見ると赤面した夕日が半分沈んでいた





君が名を呼ぶと…君の名を呼ぶと…







おわり