(「ロスジェネ」編集長のブログから全文引用です)




「改憲」論議とハローワーク新宿の憂鬱(ゆううつ)な風景
                    民主文学 浅尾 大輔

 実は、4月から就職活動を続けている。5月に誕生日を迎えて、38歳になった男の再就職活動は、精神的にも体力的にもたいへんつらく、かつ、この原稿を書いている7月末現在まで、6つの会社に履歴書を送ったのだけれど、すべて書類選考で落とされているから、それなりに男の誇りも傷つく。
 おとといハローワーク新宿で、最後の失業給付の認定がおりて、俺(おれ)、もう、こんなところに通わなくていいのだという安堵感が生まれたけれど、ああ、しかし、これからの生活をどうやって乗り切っていこうかという焦燥感がかぶさっていく。こんな状態だからか、テーマとして与えられた「憲法とわたし」は、すぐには書けない。

 6月某日、午前中、神保町にある出版社にて、なんとかありついた就職面接(落ちる)。
 6月某日、お昼、ハローワーク新宿に出向く。受付をすませ、6番窓口の、背筋がのびた若い役人に、私はうなだれたまま、この前の惨(みじ)めな面接状況を報告しつつ、提出書面にて今月の求職活動を確認してもらう。若い役人の、「不正受給がないように」という指示にしたがい、関西読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員会」での出演料や都内の大学での講演料などを自己申告。彼の、「行政文字」と言ってもいい、流麗な赤ペン文字が、私の、吹けば飛ぶ消しゴム滓(かす)のような文字に加えられ、「レ」というチェックが次々とうたれる。そのうえで、やっと私の失業給付の認定がおりる。今回は14万1373円。なんとか1カ月持ちそうだ……、と思ったら、前を向く勇気がわいてきた。さあ、これから求職活動だ!

 きみは、ハローワーク新宿に行ったことがあるだろうか? JR新宿駅西口を出てすぐの、巨大ビルであるエル・タワー23階にあるよ。
 高所恐怖症の私だが、これから始まる「戦闘」に向けて、眼下に広がる大東京を見下ろし、大きく息を吸って吐いて、気持ちを整える……。ここに来るときは、いつも憂鬱な曇り空だ。しかし、気持ちを鼓舞(こぶ)し、改めて総合受付に向かい、カードをもらい、フロアにずらりとならぶコンピューターの端末のひとつと対面し、おしごと探しの「たたかい」を開始するのだ。

 パソコン画面に鉛筆みたいなものを「ピッ」「ピッ」と押し当てて、仕事を探していくやり方。これまでの経験を生かそうと「クリエイティブ」「記者・編集・ライター」などと数字やタグで絞り込み、さらに「月25万円」「週休2日」とか労働条件の項目にフィルターをかけていく、……すると、なんと、どんどん求人先の数が減っていき、「派遣」とか納期が定められた「翻訳請負」とかのセルが目立ち始め……、「こりゃ、やばいッ」と思い、慌(あわ)てて「予備校講師」「通信添削講師」みたいなアプローチも試みる。
 
 ふと耳を澄ますと、小さな可愛い音の波が聞こえてくるのに気づく……、「ピッ」「ピッ」「ピッ」、ああ、この鉛筆みたいなので画面タッチするとき、小鳥のさえずりのような音が生まれて、仕事を失った老いも若きも、私のような「遅れてきた青年」も、それぞれ波長を合わせて大合唱しているのに気がつく……。私たちはバラバラされながらも、それこそ真剣にパソコン画面の向こうに広がる過酷な労働条件と労働現場と睨めっこしてたたかっている「戦友」なのだ!

 唐突に、アナウンスがフロアに響く。
「ただいまのお時間、大変混雑しており、お客様のみなさまには、たいへんご迷惑をおかけしております。申し訳ございませんが、パソコンの使用時間は30分とさせていただきますので、よろしくお願いします」
 このときすでに私は、ゆうに40分はパソコン求人情報と格闘していたのであり、30分たったらいったん切り上げてください、というように聞こえる厚生労働省のアナウンスには困惑(こんわく)してしまう。それだけ多くの失業者が、週の初めからここに駆けつけているのだ……。

 夜、某大学にて小林多喜二さんの小説「蟹工船」の学習会講師をつとめる。
 久しぶりに学生たちの熱いパッションにふれて、おじさん、なんだか泣けてきたんだ。学習会終了後、学生から「交通費です」と言われて茶封筒を差し出されるが、「いやいや、みなさんの飲み代にしてください」と無理して返事すると、「いやいや交通費ですから」と押し返されて、仕方なく受け取ったものの、帰路、東新宿のラーメン屋さんで封筒をあけたら、しわしわの1000円札2枚、本当に交通費代だった(笑)。いやいや、ありがとう、学生たち。

 このエッセー、結論から言うと、政府与党は、失業者や生活者が抱えている不安を解消することなしに、いくら改憲論議を盛り上げようとしても私たちはスルー(無視)し続けるだろうということなんだ。
 私たちの暮らしが豊かにならなければ憲法論議などできない。ただ危ぐするのは、アメリカのように、貧しい者や知識の乏(とぼ)しい者の投票行動に制限をかけるような動きがある場合だ。私は、まずその動きに徹底的に抗戦していきたい。


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