今回のマルコ・ルビオ米国務長官がサウジアラビアに出向いて、ウクライナ側高官と協議し作り上げた "ウクライナ戦争停戦案”を、トランプ大統領は本気になってロシアのプーチン大統領に突きつけたようだ。それはトランプが隠れネオコンだったのなら分かるが、そうでなければ彼はそれほど緻密に考えるタイプではないということになる。(以下敬称略)

 

今朝、国際政治に関するYoutuberの及川幸久氏が、この停戦案に対するプーチンの声明の内容について報じている。https://www.youtube.com/watch?v=zB8w4X1N2JA

 

 

プーチンは、言葉を慎重に選びながらトランプに直接話し合って停戦交渉を練り直したいと持ちかけており、トランプの本当の意思を確認したいと考えていることが分かる。及川氏がプーチンの声明の要約を示しているので、その趣旨を以下に記す。

 

その中でプーチンは、トランプの紛争解決に向けた努力に感謝すると述べたあと、「この紛争を平和的手段で終結させるというアイデアには全面的に賛成であるが、我々はこの停戦が長期的な平和につながり、この危機の根本原因を排除すべきという前提に立っています」とロシア側の停戦に向けた姿勢を述べている。

 

ここで、今回目指す停戦交渉の背景について少しまとめてみる。今回の交渉と両当事国の姿勢を評価する為には、戦争中の両側に戦闘能力がかなり残されているという情況下での停戦交渉であり、降伏文書への署名とは全く異なる点を念頭に置かなければならない。

 

つまり、ロシア側が警戒しているのは、2014年と2015年の二度にわたって行われたミンスク合意が失敗に終わったことである。

 

ミンスク1では欧州安保協力機構が停戦監視にあたったが、数か月で合意が破られたこと、更に2015年のミンスク合意2は、ウクライナを支援する西側とウクライナの時間稼ぎに使われ(西側諸国も認めている)問題が深刻化したことなどから、プーチンは同じ轍を踏みたくないのである。https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-02-18/R7I2ZBDWX2PS01

 

今回のプーチンの声明は、停戦する前にこれらの可能性の除去が大事であるという意味のものであって、論理的であり、国際平和実現の視点で当然である。

 

ウォールストリートジャーナルは、ウクライナは停戦交渉につくがプーチンにはそのような気持がない(表題:Ukraine Turns Tables With Cease-Fire Proposal but Putin Has Little Incentive to Sign)と、プーチン批判を行っているので、このジャーナルはネオコン万歳の新聞であることを白状しているのである。

https://www.wsj.com/world/ukraine-turns-tables-with-cease-fire-proposal-but-putin-has-little-incentive-to-sign-353464a5

 

他のメジャーな新聞も、確かめてはいないが、どうせ同じトーンだろう。

 

ミンスク1では停戦合意が三ヶ月しか持たなかったのは、停戦の実現とその確認、更にその継続には相応の技術的問題をクリアできていなかったからである。そこでプーチンが確認したことは、

 

1.2000㎞の戦闘前線で停戦実施は相当困難であること、2.十分な停戦を監視するシステムが必要であることであり、これらの問題解決のためにトランプ大統領に協力すると言明した。

 

更に、同種の紛争が将来にわたって発生しないようにするには、この紛争の根本的な原因が除去される必要があり、それについてもトランプ大統領と議論したいと述べている。

 

そして根本原因としてプーチンがあげたのは以下4項目である:

1.NATOをウクライナに拡大しない;2.ウクライナの完全な「非武装化」と「非ナチ化」;

3.東部のロシア語圏がウクライナから独立;4.生物兵器開発への取り組み(を止める)

 

これらについて十分な取り組みがなされなかったことが、まさに今回のウクライナ戦争の原因である。原因を取り除かなければ、紛争は終わらない。原因を取り除くには、少なくとも一方の当事国の譲歩か、消滅(完全敗戦)が必要である。

 

それはロシアのウクライナ侵攻前と後で何回もブログ記事に書いた通りである。
 

これらのことを考えると、この戦争を短期間に終了するには、トランプ側に決断が必要である。その一つは、ネオコンであることが判明したマルコ・ルビオの国務長官解任だろう。

 

(以上速報的に書きました;18:30表題の部分的修正あり)
 


トランプ政権は、マルコ・ルビオ国務長官らとウクライナ首脳との会談の後、対ロシア戦争に対する一時停戦の申し入れをプーチン大統領に送ったようだ。この提案にはいくつもの不思議且つ不確かな点が存在すると、国際政治に関するyoutuberの及川幸久氏が、配信した動画の中で語っている。
https://www.youtube.com/watch?v=nLswemCBHW0

 

 

協議に長時間を要したにも拘らず、共同声明で公表された停戦案はウクライナ側の最初の案にあった空と海だけの部分的停戦を、“全てにおける一時停戦”に変更しただけのものである。それだけに6時間の議論を要した筈がないので、それ以外の公表されていない条件があるのかもしれないと、及川氏は指摘する。この公表されただけのものでは、まともな停戦案になっていないと言うのである。

私が感じたところを言うと、今回の会議は停戦協議の名を借りたウクライナと米国の間の対ロシア作戦会議であった可能性が高い。不利な情況下では停戦したくないので、長時間の会議ののち、建前だけの「停戦の意志あり」という言葉をロシアに送ったのだろう。

会議終了と同時に、米国はウクライナへの軍事支援と軍事情報の貸与を再開したことも、この解釈の妥当性を示している。そして、ウクライナ支援の姿勢を明確にした今回の米国新政権の姿勢を、EU委員長、フランス大統領、そして英国首相などは高く評価している。
https://jp.reuters.com/world/ukraine/ULAXICMKOBMRBHTGJJ5M5X7NZI-2025-03-11/

一方、ロシアのプーチン大統領は数か月前に、「和平交渉の目的は、短期的な停戦や、紛争継続を目的とする軍の再編成や再軍備のための休息であってはいけない。当事者の正当な利益に基づく長期的和平でなければ」と語っているので、このままでは停戦に合意する筈はない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/f6e21816ef9dc6607d1815b4f4368fb8b8b0cb89?page=2


2)マルク・ルビオによるウクライナ戦争に関する公式定義の変更

上の及川氏の動画は、「今回の提案は、3年間続いたこの戦争における停戦の提案とは成りえず、意味不明である。この提案はトランプの平和路線とは一致しないので、今後米国側から何か変更が加えられる筈だ」という趣旨の発言で終わっている。

ところが、前回記事に書いたマルコ・ルビオのウクライナ戦争に関する解釈或いは定義を、トランプ政権による公式見解だと考えることで、一時停戦に関するここまでの話の分かりやすい解釈が可能であることを指摘したい。

それは、マルコ・ルビオによる「ウクライナ戦争は米国とロシアの代理戦争である」という定義である。そして、ロシア大統領府のペスコフ報道官も「プーチン大統領自身の見解と一致している」と述べている。(補足1)

 

 

このマルコ・ルビオの発言は、ウクライナ戦争に対するトランプ政権の姿勢を示しているとロシアに受け取られるだろう。代理戦争だと言う限り、ウクライナと米国はこの戦争の一方の当事国であることを意味している。

 

従って、今回のサウジアラビアでの会議は、看板は停戦協議だが、米国は仲介国としての地位を既に放棄していることになる。今回の一時停戦の提案は、米国とウクライナの長い作戦会議のあと、それによる作戦の一つとしてロシアに送られた米国・ウクライナ側の作戦の一部と受け取れる。

 

マルコ・ルビオはウクライナを支援し続け、第三次世界大戦の危険性をおかしても戦争に勝利するつもりだろう。この戦況芳しくない時点で、ロシアに領土に関する譲歩をしてウクライナに停戦の合意をさせるのなら、米国の代理としてロシアとの戦争に従事しているウクライナを裏切ることになる上、ウクライナ国民に賠償責任を負うことになると考えるのが普通だろう。

 

この国務長官の「代理戦争発言」は、トランプに対しロシア側が有利な現在の状況下でウクライナに停戦を強要させないように放った禁断の最終兵器なのだと思う。今後もウクライナと米側が有利になる状況まで戦闘を続けるつもりなら、停戦案は雑なものになるだろうし、フランスやイギリス等の好戦派はその停戦案を素晴らしいとして拍手を送るだろう。

 

そのことをトランプは十分承知しているのかどうかはあやしい。トランプが、本当に平和を望むのなら、この代理戦争発言に対するコメントや対応なしに彼をサウジアラビアでのウクライナ高官との会合に送ったのはお粗末である。


サウジアラビアでの会議後のルビオ国務長官の言葉:「この戦争を終わらせ、和平を実現する方法は“交渉”です。それにはまず双方が撃ち合いをやめる必要がある。ロシアにもイエスと答えてほしいが、ボールはロシアにあります」という言葉は、私にはちょっとした脅しに聞こえる:

私の解釈:「新政権になった以降も、米国は対ロ戦争においてウクライナを支援する側であることを明らかにした。我々は今後、陰に隠れることなくウクライナを支援することにする。貴国が停戦の話し合いに応じるなら、その条件は今後協議で相談したいが、どうされますか?」

トランプは国務長官に策士的なRINO(名ばかり共和党)を置いたため、外交において大失敗する可能性が大きくなったと思う。

補足:

 

1)ウクライナ戦争はロシアと米国の代理戦争(ウクライナを米国の代理とする)であるという発言のオリジナルは: And frankly, it’s a proxy war between nuclear powers – the United States, helping Ukraine, and Russia – and it needs to come to an end. この発言の中でマルク・ルビオは、ロシアは勝ち逃げできないと明言している

https://www.state.gov/secretary-of-state-marco-rubio-with-sean-hannity-of-fox-news/

 

(17:30;22:30 編集しました)

 昨日、日本でも以下の大ニュースが報じられた。マルコ・ルビオ国務長官がウクライナ戦争はロシアと米国との間のウクライナを米国の代理とする戦争であると発言したのである。この考えにロシア側も同意した。

 

 

 

現在、世界は世界統一を目指す勢力と主権国家体制を守る勢力の二つに大きく割れている。その両派の争いが具現化したのが、ウクライナ戦争である。前政権時代の米国を筆頭に西側がグローバリスト側であり、ロシアが主権国家体制を守る側である。

 

米国はトランプが大統領になって、主権国家体制を守る側に移ったのであり、それがトランプ革命の本質である。

 

従って、米国国務長官がこの発言をしたということは、その大きな世界分断の断層が、米国内の前政権側と現政権側の間を走っていることを明言したことになる。それは、米国トランプ政権には謂わば禁じ手の類であるが、それほど緊迫しているのである。現在、世界は上記両勢力の戦いの帰趨を決する分水嶺にあることを示している。

 

このウクライナ戦争が西側(つまり米国)とロシアの代理戦争であるという事実は、国際情勢にある程度の知識のある人には常識である。この常識に基づかない発言をしている日本の評論家などは、グローバリストから既得権益を得ているか無知かのどちらかである。

 

本ブログサイトでも、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後から何度も言ってきた。その一つを下に引用する。この代理戦争の本質について書いているのでご覧いただきたい。

 

(以上速報)