米国トランプ政権は、米国に製造業を取り戻して貿易赤字を解消するために、相互関税という強引な方法を考えた。全ての国を対象に輸入超過がゼロであるべきと考え、輸入超過の割合に一定の係数を掛けて輸入関税率とするという乱暴な方法である。

 

しかしその赤字には、世界を一つの米ドルという決済通貨圏として、円滑な貿易を維持するためには必要だったという本質的理由が存在する。そのお陰で、世界の中で最も安価に製造できるところで商品を製造し、最も必要とするところで消費するというグローバル化経済が成立し、世界経済は飛躍的な発展を遂げた。

 

つまり、各国が決済通貨としての米ドルと、米ドルに容易に変わりえる金融資産を一定量持つことがグローバル経済には必要であるが、それは米国の赤字によって作られているのである。時間がたてば、米国以外の国、特に途上国などは発展するが、米国自身はその赤字に苦しみ始め最終的には米国経済は崩壊の道をたどることになる。https://www.youtube.com/watch?v=O3tx4D0wjMY

 

 

この米国が抱えている罠は、トリフィンのジレンマ(補足1)と呼ばれ、20世紀の中頃にベルギー生まれの米国の経済学者ロバート・トリフィンによって指摘されていた。

 

実際、世界経済の中での米国の相対的地位は低下し、このままでは米ドルが国際決済通貨としての地位を失う可能性が出てきた。昨今、BRICS通貨やデジタルコインなどの米ドル以外の決済通貨ができる可能性が議論されるようになり、そのような事態があり得ないとは言えなくなってきたのである。https://www.youtube.com/watch?v=CHY2dKINaoI

 

 

もし仮に突然米ドルが国際決済通貨でなくなったとすれば、米ドルと不可分の関係にある米国債の市場価値が暴落し、米国経済が急激なインフレなどの危機を迎えることになる。

 

この事態を避けるために立ち上がったのがトランプである。相互関税というトンデモないと世界中が騒いでいるが、以上のように深刻な真実がその理由として存在するのである。米国は、今は発展した元途上国の中国や日本から製造業を取り戻したいのである。

 

この米ドルを基軸通貨として、その恩恵を発展途上国とともに受けてきたのは、金融エリート達つまりグローバリストたちである。つまり、トランプ関税もグローバリストとの戦いの一つなのだ。

 

終わりに: 同じ趣旨の話を4月11日の記事に書いていますので、それも参考になると思います。

 

 

 

補足:

 

1)ベルギーの経済学者ロバート・トリフィンによれば、基軸通貨国(米国)は、世界の流動性(つまり資金の流れ)を支えるために経常赤字を出し続けなければならないが、赤字が続けばその通貨への信認が揺らぎ、最終的にその地位が不安定になる。これをトリフィンのジレンマという。https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ri/A03155.html

 

(4月16日、表題を変更)

日航機123便事故に関する佐藤正久議員の質問

 

1985812日に起こった日本航空機123便の墜落事故に関する謎が、40年後の現在までSNSや書籍などでの議論の対象となっている。それらの中では、この事故には自衛隊の演習が関与しているという疑いあり、それがこの話題が継続する理由の一つのようだ。これが自衛隊の名誉にかかわるとして、自民党の佐藤正久参議院議員が4月10日の外交防衛委員会で政府に質問している。

 

 

 

この質疑応答は、日本政府や国会の隠蔽&捏造体質などの他、政府の防衛関係の中心となる政治家のあまり高くない能力を表しているように思われたので、ここに紹介したい。

 

なお、下に示したのは佐藤正久議員がこの事故或いは事件に関する不適切な著作として攻撃する、2017年7月30日 河出書房新社から出版された青山透子氏の著書の表紙である。私はこの本は読んだことはないが、後述するようにこの事故の原因を政府は隠蔽していると思っている一人である。

 

 

質疑の概略:

 

4月10日(2025年)の参議院外交防衛委員会で佐藤議員は、日本航空機123便の御巣鷹山墜落事故に自衛隊が深く関与しているという説がSNSや書籍などで広まっており、これが自衛隊の名誉にかかわるので政府は対策をとるべきだいう趣旨の質問をした。(なお、この議事録は国会会議録検索システムには未だアップされていないようだった)

 

 

佐藤氏が手にもって中谷元防衛大臣に示したその書籍は、現在ノンフィクション関係の推薦図書として学校図書館に並んでいる青山透子氏の本である。(表紙写真を上に示している)ベストセラーで既に10刷となっており、青山透子氏による類似テーマの著作はアマゾンのネットページに合計7冊も並んでいる。

 

佐藤議員は、先ず防衛大臣である中谷元氏を指名し、中谷氏が資料として提出したその本を読んだことを確認した。その後、この本の内容について次のように要約している:

 

駿河湾で試験中の護衛艦の対空ミサイル発射訓練に元海上自衛隊員のJAJ123便の機長が協力していた。その際、自衛隊の標的機がJAL機を撃墜してしまった。事故機の横田基地への緊急着陸を自衛隊が禁止しただけでなく、その撃墜の痕跡を隠すためにわざと墜落地点の特定を遅らせ、その間自衛隊の火炎放射器で墜落現場を焼いて証拠を隠滅した。アメリカの大統領から中曽根総理大臣への書簡に外務省担当官がわざわざ事故ではなく墜落事件という言葉をつかっていることからも、中曽根総理も外務省も知っていて隠蔽した。(日本語については若干修正した)

 

続いて佐藤議員は、この本の内容をどう考えるのかと事故調査を担当した国土交通省に質問した。答弁にたった国土交通副大臣である高橋克法氏は、19876月に出された調査報告書の内容の要約を淡々と読み上げ、政府のこの件への認識とした: 

 

事故原因については、後部圧力核兵器の不適切な修理に起因し、後部圧力隔壁が損壊したことにより胴体後部、司直尾翼、操縦系統が損壊し、飛行性能の低下と主操縦機能の喪失を来したために生じたものと推定されるとしている。この事故経緯については様々な角度から調査解析を行った上で、専門家の審議の上、ほぼ間違いないとの結論に至ったため、強い推定を示す推定されるという表現を使用している。以上です。

 

こののち佐藤氏は青山透子氏の著書における記述と事故調査報告書の記述との間の大きなへだたりについて全否定するものの具体的な指摘はせず、この本の記述は自衛隊の名誉毀損にあたるとし、防衛大臣にこのことをどう思うかと正している。

 

中谷防衛大臣も新たな説得力ある根拠を何も示さずに、事故機墜落に自衛隊機は関与していることは絶対にないと強く否定した上で、この本の内容は遺憾であるとし、今後しっかりと対応したいという言葉でこの件の答弁を終わった。

 

佐藤議員は質問を続ける。公益社団法人の全国学校図書館協議会によって、この青山透子氏の本三冊が推薦図書となっているが、この選定は問題ではないのかと文科省に質問している。文科省副大臣は、その団体は文科省の所管にないが、佐藤議員の懸念について防衛省の動向も踏まえてその団体に伝えたいと答えた。

 

佐藤議員はこれらの質問のあと、自衛隊の災害出動に関して質問を続けている。従って、質問は全体としては自衛隊の名誉を保ち活動を支援する趣旨でなされたようだ。以下、この災害出動に関する部分はここで議論する問題ではないので、割愛する。

 

佐藤議員の質疑における疑問点:

 

以上のやりとりは、日航機123便事故に関する真実が事故二年後に政府の事故調査委員会が公表した通りであるという前提の上になりたつ。しかし、自衛隊関与説にも長い歴史がある。それを無視する佐藤議員の姿勢には、傲慢さと無知を感じる。

 

複数回の国会審議などとの関連で、政府な何らかの言論弾圧を青山透子氏に行ったと想像する。それにも拘らず、この自衛隊関与説には事故の被害者とその親族を含めて多数の国民の心の中に40年近い間存続し続けた。上に紹介の佐藤議員や中谷防衛相の短いやり取りだけで、全国民の前で完全否定できるほど軽いものではない。

 

本当に根も葉もない陰謀論の類なら、防衛相や自衛隊トップによる名誉毀損罪などでの提訴ののち、司法という舞台で解決できている筈である。佐藤氏や中谷氏は、国会議員としてその40年間にわたる国民の声を聴く能力を持っていないのか? 

 

何故、元自衛隊高官の御自分や現在の防衛相が、この議論に終止符を打つべく青山氏と司法の場で対峙する方法で戦わないのか?何故、国家権力全体で抑え込もうとするのか? 根も葉もない陰謀論を吐く一人の女性に対する構えとしては不自然ではないのか?

 

繰り返す:上記本の著者が根も葉もないことを言って、自衛隊や国家の名誉を棄損しているというのなら、例えば防衛大臣の名前で名誉毀損で告発することが可能である。何故40年近い間、司法の場でボイスレコーダーの記録も何もかも提出して、司法の場で争わなかったのか?

 

この質疑を報じたyoutbe 動画の視聴の後半は、日本国の防衛の中心にある防衛相と元自衛官の参議院議員の情けない体たらくを見る思いだった。 答弁にたった国土交通省や文科省の担当は副大臣であり、大臣は嫌な仕事と知って副大臣に下請けに出したと疑う。嘘をついてまで佐藤議員に迎合すると、票を失う危険があるからだろう。

 

私が一年前に書いたブログ記事

 

私もこの事件の真相などについ昨年1月にブログ記事としてアップしている。そこに、事故原因は圧力隔壁破損だというが、機内ではそんな急激な気圧低下は起こっていないこと(実際機長らは酸素マスクを着用していなかったと言われている)や、垂直尾翼の一部が破損していることは事実であるが、専門家は圧力隔壁の破損では残存破片に見えるような破損は生じないだろうと言っているなどについて言及し、中曽根内閣が米国政府とも相談の上、この事実を隠蔽したというのがその時の結論である。

 

当時米国レーガン政権はスターウォーズ計画を打ち上げ、日本の中曽根政権もその日本版の防衛計画を定め、その一環として自衛隊が駿河湾で迎撃ミサイルの発射訓練をしていたと言われている。日米両政府には協力して隠蔽する動機が存在する。

 

事故原因とされる圧力隔壁の不完全な修理を行ったという不名誉をボーイング社は甘受したのだが、その後日本が購入した飛行機の大部分がボーイング社製であることは、ボーイング社が賠償などの責任を全く問われなかったことも含めて、上記結論を陰謀論だとして退ければ非常に不可解な点として残る。

https://ameblo.jp/polymorph86/entry-12836247903.html

 

おわりに: この質疑を聞いて、全体としてのレベルの低さに唖然とした。日本の政治はこのレベルなのだろうか。このダイナミックな国際政治の中、日本は北極海の氷山の中を航行するタイタニック号のようだ。寒い。

=== EOF ===

トランプの相互関税や自動車関税などの目的についての議論が日本のネット空間では多くなされている。それを政治問題とも絡めて包括的に解説したのは及川幸久氏のyoutube動画が初めてだろう。 一つの目的は言うまでもなく、国家安全保障の問題としての製造業の国内回帰である。(補足1)もう一つの意味については、一部理解しにくい箇所もあったので、独自に少し整理してみた。https://www.youtube.com/watch?v=kYaMjA2YXAs


トランプ関税の目的と方法は、第一次トランプ政権からのスタッフであるスティーブン・ミラン大統領経済諮問委員会委員長の論文に書かれているという。つまり、ミラン氏による関税とドル安政策によって米国の貿易不均衡を解消するとともに新しい通貨体制を構築するという論文である。
https://www.hudsonbaycapital.com/documents/FG/hudsonbay/research/638199_A_Users_Guide_to_Restructuring_the_Global_Trading_System.pdf

上の論文においてトランプ政権一期目に、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課した時には物価上昇も招かず成功した経験が書かれている。その関税措置に対しての中国の対抗措置に対しては、通商法301条による60%という高い関税を多くの商品に課した。https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-07-05/PBEYN76K50Y201

その関税が物価上昇を招くことはなく、その実質的負担は中国国民の購買力低下という形で中国が負うことになり、米国は関税収入と米国での鉄鋼生産の一部復活などの成果を得ることになった。このあたりのことについては以下の動画(これも及川幸久氏の動画です)が分かりやすいhttps://www.youtube.com/watch?v=sYtGzhUQrXE

 


ただ、今回の関税政策は個々の製品やその生産国を対象にしたものではなく、はるかに大規模で一般的な関税である。これまでの小規模な政策で得た「関税が物価などマクロ経済指標に影響しない」という経験則は成立する保障など無い。その不確実な部分に関する自覚が、世界各国の株価の暴落を考慮しての90日間の一時停止措置となったようだ。



2)今回の相互関税の目的

何故、このような一般的な関税政策を実施すると言い出したのか? それには米国の経済的地位の低下、莫大な財政赤字、国際政治において危機的状況にあることなどの背景があり、その中心に決済通貨である米ドルを維持することの困難があると思う。つまり、嘗ての日本そして21世紀の中国の経済発展モデルが成功する条件として、米国の決済通貨を維持し自由貿易を広めるという大きな仕事があったと言うのである。

 

今回のトランプ関税の発表は、その役割を米国は今後維持することが困難であるという叫び声として聞くべきなのである。1985年のプラザ合意が、急発展する日本を対象の中心に置いたのなら、今回のトランプ関税は21世紀の中国を対象の中心に置いているということになるだろう。

現在、米ドルが決済通貨としての地位を徐々に失う傾向にあり、そしてそれが思ったより早く訪れた場合、米国は多額の政府債務とまともに対峙する羽目になる。例えばあるディジタル通貨が突然決済通貨としての地位を得た場合、米ドルのその地位の喪失と同時に起こる米国債の値下がりと高インフレに襲われることになる。

つまり、これまで膨張する世界経済を支える決済通貨としての役割を米ドルが果たしてきたのだが、その為には米国は多額の国債を発行し米ドルを発行する必要があった。そのような多額の借金をするという前半の段階は楽しいことなのだが、それを債務として意識する段階になると、つまり別の決済通貨にその役割を引き継ぐ段階になると、非常に重苦しくなるのである。

現在の米国はこの段階にあり、その重苦しさ故に、トランプの「これまで数十年間諸外国に搾取されてきた」というたぐいの表現になったのだと思う。一方、諸外国は何の憂いも不安もなく借金を積み上げる段階の米国を思い出して、何を勝手なことを言っているのだという思いを抱く。

やはり、米国の世界の決済通貨を発行し維持するというこれまで果たしてきた大きな役割に対する諸外国の評価がなければ、このトランプ関税に関する交渉はうまくいかないだろう。

今後、世界政治は混乱の時代に入る。それはこの通貨問題と無関係ではないだろう。その時、米国にこれまでのリーダー的な役割を望むなら、この大問題を一緒に考える姿勢が必要である。米国は、その中で中国の隣国である日本の協力は欠かせないので、首脳は日本に一定の配慮をしている。その配慮の意味を石破内閣は十分に考える必要がある。

 

兎に角、政府首脳は上に引用したスティーブン・ミランの小論文を十分読み込んで理解する必要があると思う。更に、4月5日のX上にアップされたタッカーカールソンのスコット・ベッセント財務長官へのインタビューなどを咀嚼して、それらに対する答えを準備して対米交渉を進めるべきである。

 

補足:

 

1)国家安全保障上の問題とは、戦略的に重要な半導体や鉄鋼などを完全に外国に依存してはならないということである。食料とエネルギーにおける安全保障がその最重要部分だが、その他に武器製造上に欠かせない半導体、造船業、鉄鋼やアルミなどの基本的材料の独自調達の能力維持などである。

== EOF ==