蓮池薫著の拉致と決断(新潮文庫本、平成27年4月)を120頁くらい読んだ。しかし、面白くないのでそれ以上は読むのをやめた。新潟県の柏崎に帰省中デートで海岸を散歩している時拉致されたという。その光景は、一応リアルに記述されていた。また、北朝鮮での日常生活の様子、食糧難の中で生き残る国民の様子もよくわかった。
 
ただ、北朝鮮が拉致を行った目的、彼が北朝鮮で関わっていた仕事についての記述はまえがきと100頁までの本文に一切書かれていなかった。その後305頁までの本文をパラパラ見てもなさそうだった。更に石高健次という方の解説記事にも、北朝鮮が拉致を行った目的として、1)旅券や運転免許証を剥奪して、日本人になりすますこと(おそらく、韓国などに送り込むスパイにもたせるということだろう。)、2)工作員に日本語や日本の一般常識などを教えること、が書かれてのみであり、蓮池さんの就いた仕事などについては何も書かれていない。
 
本文には仕事についての詳細は見当たらなかった。拉致されてから、蓮池さんと祐木子さんは別々に収容所(本文では招待所と書かれている)に入れられるが、その後二人は結婚することになる。しかし、その経緯についても全く何も書かれていない。この本を読んだことは、ほとんど時間のロスだった。ただ、蓮池さんの頭の中にそれらと多くの北朝鮮での体験が秘蔵されたままであることは何を意味しているか。それを考えることは、意味があるかもしれない。


巻末の解説の中で、石高氏は以下のように書いている。


かつて、救出を訴える市民運動家たちから、生還した拉致被害者はもっと多くのことを知っているはずだ、それを明らかにすべきだと非難されたことがある。それに対して彼は、「自分が余計なことを喋ったために生きている被害者が殺されたらどうするか」と私に言ったことがある。

もちろん、それも理由の一つだろう。そして、自分の命や家族の命が、危うくなることを心配しているのだと思う。それは、当然の心配である。拉致事件は、日本政府が憲法に13条に定められた責任を果たしていないことを意味するが、それを基に日本政府を攻撃せず、北朝鮮のみを攻撃するのは不思議である。

本を書いた動機は、多少の印税が入るからという出版社の誘いだろう。その際、蓮池さんは何も書けないと言っただろうと思う。このような本を出版した新潮社の出版社としての姿勢を疑う。