ジレッド・ダイヤモンド著の「銃、病原菌、鉄」(日本語訳)を読んでいる。文明の発展の歴史を科学的視点で詳細に述べた著作であり、大変興味深い記述があちこちに見られる。その中の第13章”発明は必要の母である”(注1)の中に、私も日頃から思っていることに関する文章があり、それを基に本文章を書いた。
それは、最近も日本人3人がノーベル物理学賞を授賞した際に、ブログに書いたことと深く関連することである。その中で、“科学技術文明は無数の研究者の努力により現在の形になっている。そして、応用研究では特に膨大な数の研究者や投資者の努力で、商品にまで至る。その中でたまたま一里塚的な位置にあった研究者をノーベル賞委員会が選び授賞する”と書いた。
関連した文章が上記本にあったので、その引用を含めて私の考えを加えて先のブログの補足を書く。
上記本の13章の中の「誇張された天才発明家」のセクションに、ワットの蒸気機関の発明の経緯を詳しく説明し、そのサブタイトルの説明をしている。下にネットでの調査を加えて蒸気機関の発明経緯を書く。

蒸気機関と言えば、ワットがヤカンから上がる蒸気が蓋を動かすのをみて、発明したという話を信じている人が多いかもしれない。しかし、蒸気自動車や蒸気機関車に至るには、上記のような長い歴史があったのである。しかも、ピストン運動を回転運動に換えるプロセスも、ワット以外の何人かが決定的役割を果たしているのである。
更に、エジソンが発明した白熱電球も、1841年から1978年の間に色んな発明家が特許をとった白熱電球の改良型だった。ライト兄弟の有人動力飛行機も、その前にオットー・リリエンタールの有人グライダーやサミュエル・ラングリーのエンジン付き無人飛行器があった。
そして、著者は結論として、“あの時、あの場所で、あの人が産まれていなかったら人類史が大きく変わっていたという天才発明家は、これまで存在したことがない。功績が認められた発明家とは、社会が丁度受け入れられる様になった時、既存の技術を改良して提供できた人であり、有能な先駆者と有能な後継者に恵まれた人なのである”と書いている。それが、「誇張された天才発明家」の意味するところである。
今年ノーベル物理学賞に輝いた3名の功績として誰もが知る様になった青色発光ダイオードの発明であるが、それも量子力学とそれによる半導体の研究、半導体内での電子とホールの再結合蛍光の研究、点接触ダイオードや接合型ダイオードの発明、赤色発光ダイオードの発明、青色発光ダイオードに相応しい結晶の研究などがあった。そして、赤崎教授と天野博士が初めて青色発光ダイオード作成した。また、工業利用を可能にした中村博士の研究も、徳島の中小企業である日亜化学工業の創業者は、中村さんの研究に5億円の投資をし、米国留学も許して、青色LEDの開発研究を進めたという。このような長い経緯を知って、初めてこの大きな成果が評価できるのである。
ところで、中村教授は米・現地時間の7日、自らが勤務するサンタバーバラ校で会見を行い、 学生からの“(研究に対する)モチベーションは?”という問いに対し、「怒り(anger)。とにかく怒りだ」と回答し、日本の研究環境について、「日本の会社で発明したとしても、ボーナスをもらうだけ。米国では会社を立ち上げられる」と苦言を呈したという。http://daily.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1413083146/
中村氏は、開発当時勤務していた中小企業のトップの理解を得て、多額の研究費を出してもらっている。その厚遇にたいして多少の妬みなどは何処でもあり得る(注2)。望み通りの研究成果を得ただけでなく、訴訟したとはいえ、8億円の報奨金を手にし、更に、今回ノーベル賞の栄誉を得た。上記のような発言は、私には理解できない。
注釈:
1)通常良く言われるのは、「必要は発明の母である」である。しかし、この言葉で語られる発明は、大発明の中では少数派である。
2)サイトにこの辺りの経緯が説明されている。http://biz-journal.jp/2014/10/post_6311_2.html しかし、ここで書かれている怒りは、本分中の講演後の怒りとは本質的に違う。