激論コロシアムで拉致問題の解決に関して議論されていた。私はこの問題の解決は非常に難しいと思っている。
 
 安倍総理は拉致問題解決を最も重要な課題の一つに上げている。安倍政権成立とともに交渉がスタートし、北朝鮮が拉致被害者の調査をすることになり、そして、9月末には報告があると報道されていた。しかし、その調査に未だ時間がかかるという突然の通知が北朝鮮よりあった旨、菅官房長官より今日発表された。 
 北朝鮮は何をどういう形で要求し、安倍政権はどういう交換条件を出して、合意に至る予定をしているのだろうか。お互いの思惑に大きなズレがあるように思えてならない。 
 
 私は不思議に思うのは、日韓基本条約の存在を考えないで、北朝鮮は経済協力金が欲しいのだというような発言が、評論家などから出ることである。日韓基本条約には、朝鮮半島の唯一の合法政府は韓国であると書かれている。従って現状では、韓国に行なった様な、戦後補償的な意味で経済援助はできないのではないか。そうすると、残されているのは、ダッカでの日本赤軍の航空機乗っ取り犯に対して行なったように、身代金支払いで拉致被害者を取り返す方法である。そんな正義も法律も無視して、西欧諸国の笑い者になるようなことを再び行なうのか?  
 
 先ほど放送されていた激論コロシアムでは、議論が混乱していた。古谷前拉致担当大臣が言う様に、「これは犯罪であるから、無条件で返すべきだ」というのは正論である。ただ、その正論を持ち出す以上、無法地帯(注1)に住む組織化された人々に対して、或いは、非合法ではあるが国家として認めるのなら、朝鮮人民共和国に対して圧力と制裁を加えて、或いは宣戦布告して、奪回するしかない。そんなことは不可能である。そして、経済援助金が間接的にせよ付随しない場合には、北朝鮮が拉致被害者全員返還などに応じる筈がないことが、その番組の最初で、既に常識的なものとして確認されていたではないか。古谷氏の発言には一貫性が欠けている。 
 
 つまり、朝鮮半島には合法的国家として韓国だけが存在するとしている日本政府は、先ず「交渉相手である北朝鮮をどのように定義するのか?」に答えを出さなければならない。それに答えを出さない以上、解決方法を探す範囲を明確に出来ない。 
 
 番組に参加していない青山繁晴氏が、工程表を作るべきであると言ったと紹介されていた。それを長谷川氏は一蹴したが、いつもながら、此の人はあまりわかっていない。青山氏が言いたいのは、恐らく、交渉相手が誰なのか、日本との関係はどうなのか、拉致は犯罪なのか或いは戦争の一形態なのか、そのような現状の分析からスタートすべきだということだろう。最終的に朝鮮半島のもう一つの国家として認めるという方向で解決するのなら、A) 韓国や米国と協力して、北朝鮮の非核化を日本国が仲介し、次に B)韓国との交渉を経て、日韓基本条約の書き換えを行なう。その後、北朝鮮を国家として承認して、韓国と行なった様な条約の締結と、戦後補償に相当する経済援助(注釈2)を行なうことになる。そうなると、拉致問題は自動的に全面的解決となる。しかし、そのシナリオは中国や米国は納得するとしても、韓国がなかなか納得しないだろう。 
 
 もう一つのシナリオは、北朝鮮を内部崩壊に導くものである。それは、CIAなどの諜報機関のない日本の最も不利な分野である。また、中国は北朝鮮の崩壊は絶対に防止するだろう。 
 
 恐らく青山氏が言いたいのは、工程表を考えることで、議論が今日の番組のような雑談的なものから、より緻密なものに脱皮することが可能になるということだろう。 
 
 上記のような正論的解決が出来ないのなら、「これは犯罪であるから、無条件で返すべきだ」と拉致担当大臣が言うのは、はじめから解決する気などないか、全く事の本質が解っていないかのどちらかだろう。 
 
注釈: 
1)合法政府は韓国のみであるから。 
2)第二次大戦時には朝鮮半島は日本国の一部であったため、戦後補償は出来ない。