ふと思い出した事がある。
高校生の時、音楽の先生(バリトン)が授業でこんな事を言っていた。
「フランス人はあの独特な鼻に抜けるような発声のせいで、力強い声が出ない
骨格をしている。従ってオペラを歌うには不利である」と。
その時の私は「へえ、そうなんだ」と思って聞いていた。
19世紀、テノール歌手アドルフ・ヌーリのように高音は頭声(ファルセット)
で歌うのが常識?とされていた。そして彼は当時最も人気の歌手だった。
しかしそこへ同じテノールのジルベール・デュプレが現れ、胸声(実声)でHi-Cを出したと言われ、聴衆はデュプレのその力強い声に熱狂し、ヌーリに取って代り
パリ・オペラ座に君臨した。その技法が現在の歌唱法に繋がっているとの事。
(まあ、この事は数年前に知った事なのだがw)
しかし、である。そのヌーリ、デュプレは共に「フランス人」なのである。
当時彼等が実際に出した声はどのようであったかは私には分からない。
しかし2人共、先生の言う「オペラには不利な骨格」(?)をした「フランス人」だ。
先生の言う通りであるなら、そもそも高音を力強く出しようのない裏声?で出していたヌーリはともかく、デュプレに関しては説明がつくのだろうか?「例外」と片付けるのだろうか?
それともヌーリに対抗する為、新しい発声法に一か八かで挑み、たまたま運よく
会得出来たとでも(誰にでも会得出来るものではないのかも知れないが)?
更にその先生は、
「日本語を始めアジアの言語は口の中を狭めて発声している。」
「従ってアジア人は声楽に不利な骨格をしているので、口の中を欧米人よりも開ける必要がある。」とも言っていた。
そんな先生の声量は凄まじかった(教室では)。
後日コンサートにて、先生の歌う「悪魔め、鬼め」他を聞く機会があったが、
非常に驚き、がっかりした。
声が飛んでこないのだ。教室ではあんなに爆音なのに・・・
よく分からないが、当時から「世界的な歌手と日本人歌手の発声は違う」と
漠然と感じていた。
そこへ先生の「骨格論」と「飛ばない声」である。
私は、「先生の言う事が正しいのであれば、日本人が声楽をやる意義は?」
と考え込んでしまった。
そして、「この国の声楽界のトップ自体がこんな考えなのだろうか?」と思った。
どうやら「骨格」云々言う声楽関係者の方が多い様だが、それを含め、
これまでこの国の声楽界では「常識」とされていた事に疑問を感じ、
「正しい方向へ向かうには?」と模索されている方々が徐々にではあるが
増えてきているとの事です(もちろんこれまでにもそういった方々はいらした)。
そして良い結果を出されているとの事。
私も様々な事柄に対して「これまではこうだったから」と囚われず、
あらゆる可能性を模索して行けたらと思う次第です。