「バーベンハイマー」現象とは?

先月、7月21日にアメリカで同日公開された映画『バービー』と『オッペンハイマー』。前者はバービー人形の世界を実写化した作品で、ピンク一色のポップな映像が特徴。後者は「原爆の父」と呼ばれた科学者オッペンハイマーの半生を描いた伝記映画です。

 

この2作、まったく正反対といえるほど違う作風なのに、両作とも大ヒットしているせいなのか両方を鑑賞する人も多かったようで、2作のタイトルを併せた「バーベンハイマー」という造語が誕生。そして「#barbenheimer(バーベンハイマー)」というハッシュタグで、両作の画像を併せたネットミーム(ネタ画像)が次々にSNSに投稿されていました。

 

それは大体、弾けるような笑顔のバービーとオッペンハイマー自身や原爆のキノコ雲とのコラボ画像で、キノコ雲はピンク色に彩られています。このミームを見て、日本人あるいは世界の被爆者・被曝者たちはどんな気持ちになるでしょうか。

 

さらに、映画『バービー』公式SNSがこれらのミームに対して好意的なリプライをしていたことから、日本人を中心に大炎上して「#NoBarbenheimer」というハッシュタグで反対意見を表明する人も出現。まずワーナー・ブラザース・ジャパンが本国に謝罪を求め、最終的には配給元の米ワーナー・ブラザースが公式に謝罪するまでに発展しました。

 

  日本とアメリカの歴史観の違いを再認識

この「バーベンハイマー」現象から見えてきたのは、日米の歴史観の違いです。この件の問題点は、ミームに原爆のキノコ雲を使ったことでした。

 

唯一の被爆国である日本では、この雲の下でどれだけの人がどんな風に苦しんで死んでいったのか、その後も原爆症で亡くなった人たちがどれだけいるのか、学校の平和教育や歴史などで習う機会があります。

 

しかしアメリカでは今も、広島・長崎に原爆を落としたことが戦争終結につながったという「歴史的評価」が高く、多くのアメリカ人は原爆の被害状況などを知る機会がないようです。

 

実際、広島の原爆資料館を訪れるのは、多くがヨーロッパ諸国からの人たち。今年5月に開催された広島G7サミットで首脳陣が原爆資料館を訪れたことが注目されましたが、アメリカではこのニュースは無視されたのか?と思うほど、原爆についての認識が違うと思い知らされました。

 

  ナチスの鉤十字と日本の旭日旗

ではもし、これがナチスの鉤十字を使ったミームだったらどうでしょうか。アメリカにはナチスの迫害から多くのユダヤ人が逃れてきており、鉤十字のミームが氾濫することすら考えつきません。

 

日本にも他国への侵略の歴史があり、特に韓国は明治時代の韓国併合から現在に続く反日感情を持ち続けていて、政治的にそれを利用されることもあります。日本の軍国主義を連想させる旭日旗に対する拒否反応は、如実に日本人と韓国人の温度差を感じさせるものでもあるでしょう。

 

こうした歴史認識のすれ違いは、被害者と加害者の認識の違いとして現れます。アメリカにとっては原爆のキノコ雲は戦争を勝利に導いたアイコンであり、日本にとっては忌まわしくも忘れ難い恐怖の象徴なのです。そこを理解しなければ、今回のバーベンハイマー現象はそれこそ理解し難いものになってしまいます。

 

  それらを踏まえた上で、原爆の日をどう過ごすか

映画『バービー』は日本では8月11日に公開日が迫っており、バーベンハイマー騒動の渦中に監督の来日もあったため、早急な公式謝罪に繋がったと考えられます。しかしむしろ、そうでなければ謝罪に繋がらなかった可能性もあります。

 

しかも数日後には広島・長崎で「原爆の日」の記念式典が行われるというタイミング。逆に言えば、ここで改めて「原爆」や「核兵器」について考える機会を与えられたと受け取り、原爆の日を慰霊と追悼の気持ちを持って過ごし、平和メッセージの発信や学びに費やせればとも思います。

 

傷ついた人たちの気持ちに寄り添い、認識の違う者同士でもお互いを理解し合うことこそ世界の平和に繋がると信じて。