絶世の美女
慶応義塾大学旧図書館階段ホールに設置されている、大理石彫刻「手古奈」をご紹介しましょう。
彫刻家・北村四海(1871~1927)による「手古奈」は、慶應義塾創立50年の図書館建設に合わせて北村氏から寄贈されました。しかし、昭和20年の空襲により破損してしまい、いまも見る者に痛々しく感じられます。戦禍の痕跡をとどめるため、修復はあえて最小限になされたということです。長らく塾内の倉庫で保管されていましたが、今回60年ぶりに公開されました。
「手古奈」とは、万葉集にも詠まれた絶世の美女のことで、今の千葉県市川市真間にその伝説が語り継がれています。ヤマトタケルノミコトも惚れたといわれています。真間には今でも、「手古奈」が、毎日水を汲みに来た井戸が残されているそうです。四海によるこの「手古奈」も、美しいのは勿論ですが、空襲による被災の跡生々しく、生命の大切さを一層健気に訴えてきます。
明治を代表する大理石彫刻家・北村四海は、長野の宮大工の家に生まれ、幼い頃から芸術的センスを磨いてきました。ブロンズが主流であった当時の彫刻界において、本格的に大理石彫刻をパリにて学び、安田善次郎などのパトロンにも恵まれました。現存する作品は他にも、旧安田邸(文京区)、東京国立近代美術館などに保存・展示されているようです。