結婚相談所から申し込んだ11才歳上力石徹に似た方とは既に交際終了とされたが、12月に入りクリスマスを一緒に過ごしておる最中。
六本木にあるミッドタウンの駐車場に車を駐めると、そのままB2階からエレベーターに乗る。
先に待っていた男女のカップル1組が先に乗ったから、
マスクをした力石が、扉付近の右側に乗り、
続いて私が奥の右側へと、2人縦に並ぶ。
そのエレベーターは、
最上階のリッツカールトンまで続くのだが、
無論最上階のそのボタンを力石が押すことは無い、まあ期待もしていない。
エレベーターはB1階に到着し、
先に乗っていたカップルが降りた。
入れ替わりに背の高い男が乗って来る
そして、
その男は乗った傍から私をガン見しておる。
エレベーターは、
扉が鏡のようになっておるから、
閉じると当然男の視線を感じたが、
私はなるべく見ないように心掛ける。
背格好と雰囲気、
そして私を知っておる人物と言ったら
過去に相談所でお見合いした会計士やも知れぬと思うた、頼むから話しかけないでくれ。
この近くには、月額80万を超える憧れの住居、
オークウッドプレミアもある。
そしてクリスマスだし、もはやここには会計士もトム・クルーズも居たっておかしくは無い。
その男が、失礼と言いながらエレベーターのボタンを押した時に、顔をチラリと盗み見て驚く。
その男、本物の舘ひろし。
顔は面長のイメージがあるがとても小さく、
失礼だが、ライトを常に浴びておるせいでシミが多いように見受けられる。
白いジャケットとスラックス、短髪は上手く頭の形状を型どって、より小さく小さく見せており、
姿勢も良く、勿論、余裕で圧倒的に格好良い。
なんか、本当に無粋だが、
金持ちの中でも良い金の良い香りがする。
しかし彼は、どういう訳だか私の左側に位置した場所で、未だ私をガン見。
私は真っ直ぐ力石の背中を見つめるが、
彼の視線が異様に気になる、
何か用か、舘ひろし。
エレベーターの中は、
マスクをして無言の男、
全神経を左側に集中させる女、
そんな女をガン見する舘ひろし、と、
三角の不思議な結界が張られておる。
そのうち、舘ひろしが短く息を吸ったから、
これは絶対に話しかけられるな、
と下腹に力を入れる。
もはや、ナンパされると思った。
すると、舘ひろしは私に話しかけずに、
そのまま短く息を吐き出すと、
今度はまた短く息を吸い、
その不自然な吸って吐いてを
エレベーターの中で繰り返し始めた。
大物俳優が何故そんな事をしているのかと、
また、そんな所に居合わせて申し訳無い
と思う素人2人の空気が、
エレベーターの中にしばし漂う。
側にはシューシュー言うておる舘ひろし。
まあ真相は解らない。
その後鬼滅ブームとなる、全集中の呼吸を既に修得されておったのかも知れぬ。
しかし言える事は、
舘ひろしは間違いなく良い人だ。
芸能界で成功する者は皆性格が良いと、
昔、後輩から紹介された、広告マンが言うておったのを思い出す。
そして私の方は、舘ひろしにナンパされたのだと、大きく事実を曲げながらこのネタを、擦り切れるほど使う事になるだろう。