結婚相談所から申し込んだ11才歳上力石徹に似た方とは既に交際終了とされたが、12月に入りクリスマスを一緒に過ごしておる最中。
クリスマスなのに、
ディナーはサラダバーで愕然とする。
ここは俺が払うとか言うから、
では一番高いヤツを頼んでやろうと思うが、
結局安定のファームボウルとか選ぶ、
1352円だ。Tポイントで買えるヤツだ。
しかしだ、
先程からずっと気になっている事がある。
会った時から、
力石はずっとマスクを着けておるのだ、
コロナの今でこそマスクは当たり前だが、
この頃はまだマスクをデート中に着ける事はほぼ無かった時期だ。
しかし食事中は外すので、
整形した訳でも無さそうだし、
風邪を引いた様子も無いし全く奇妙な男である、
と思いながらふと気付く。
私が帰り際に、キスしようでは無いかとか言うから、そのキスを防止する為にマスクをしておるのでは無いか。
しかしだよ、
力石とは相談所を通しての付き合いは終了しており、その後男女の関係になる様子も無い、
その上でだね、
我々の関係性は一体どこに向かっておるのだ。
今日も見知らぬ不気味な男子にナンパされたから、私の容姿は一般的である筈だ。
いっそ片乳でも見せて力石に襲い掛かるか。
サラダを食べ終わると力石が、
この後六本木のミッドタウンに行こうと言う。
すっかり片乳について考え込んでいた私は
パッと顔を輝かせる。
そうか、このサラダは前菜であったのか、
メインの店はミッドタウンにあるのか、
店を変えてのディナーなど考えたことも無かったが斬新である。
ミッドタウンの駐車場への道は混んでいた。
ブルーのライトを浴びて溢れかえる人の間に、
イルミネーションを観光するツアーの黄色い旗が時々見える。
車の長い列を待っている間に
ラジオからは男女のDJが、クリスマスにプロポーズを期待女子が多いなどと余計な事を話し、
この手の話題に繊細な力石が、若干引いておるのが分かる。
ネタとして笑い飛ばす器も無いこの男に、
私は黙って窓の外を眺めるしか無い。
そして現状を変えたくない筈の私もそろそろ、
丁半決める時が来ておるのだと漸く察する。