結婚相談所から申し込まれた坂東忠信に似た方との葉山デートが終わり、夜は11才歳上の力石徹と似た方と会う予定。
待ち合わせ場所は銀座マロニエゲートで、
葉山から恵比寿に帰って、時間は無かったが歯を磨きシャワーを浴びてから自宅を出てきた。
12月初旬であるから、
湿った髪は夜風に冷たくなるばかりだが、
何となく、数時間前に会っていた別の男の気配は水と石鹸で綺麗さっぱりと落としたかった。
おかげで約束の時間に遅れそうだから、
半ば走って待ち合わせ場所にたどり着く。
しかし、
息を弾ませて焦ったってなんのことは無い、
力石は待ち合わせ時刻より30分程遅れて到着したから、いつもの事だがその習慣に少しも慣れず、急いで来た割には待たねばならぬこの時間、
こんな事なら坂東忠信の方が私を幸せにしてくれるのかも、
などと比較にならぬ事で幸せの偏差値を確定しようとする。
モヤモヤ考えながら力石の車に乗り込む。
力石特有の安定のダルさが漂っておるが、
まあ会う時間を作るだけ彼としては頑張っておる方なのか、
それとも、
惚れた女にはもっとテキパキ動くものなのか、
比較する術は無いからこのダルさに慣れるしか無い。
しかし思うに、男というのは、
多少のストレスありきで女性と生活をしていないと、自由に怠け過ぎて何だか脳の動きが鈍くなるのでは無いか。私の周りだけがそうなのか。
六本木ミッドタウンの鈴波で晩飯を食べる。
銀鱈の絶妙な焼き加減と、ピカピカに輝く白米はご馳走であるが、力石と特に弾む話題は無い。
しかしお会計は、
何も言わずとも2名分支払ってくれるから、
やはり力石の方が私を幸せにしてくれるのではとか考え直す。
もはや幸せとは何だろうか。何を基準値とすべきなのか。
店を出て車に戻ると力石は、
東京タワーがクリスマスのイルミネーションで綺麗だから見に行こうと言う。

確かに綺麗だ。ハートを見せたかったのか、
愛してるのサインなのか。
そして標識は、戻るの禁止と言うておる。
しかし、結婚の話は進まないし、
仲人の話しを出すと相変わらず怒り出すし、
AB型とO型は合わないなどと必ず言うし、
特に盛り上がる共通の話題が他に無いから、
結婚紹介所の話しとなり、怒ったりするし、
毎回負のループに陥る。
この進捗率の悪い男と
今後も付き合う価値はあるのか。
などとぼんやり考え始めた頃、
力石が不意に、
来週あたり旅行でも行きますか。と言う。
私は躊躇ったが、
よし行こう、と潔く答える。
それで何かが変わるなら、是非それをこの目で見てみようではないか。