結婚相談所から申し込まれた7才歳上、坂東忠信に似た会社員の方と逗子葉山でデート中であり、夜は力石と会う予定。
葉山から帰りの電車は途中まで、
坂東忠信と並んで座席に座っておるが、
彼は空になったプリンの瓶を箱のまま膝に抱えておる。
持ち帰ると言い張るので止めなかった。
葉山では車の中でプリンを食したが、
坂東忠信が、自分の分も美味いから食べてみて下さいと何度も執拗い。
しかし、彼はプリンを3つ買っているから、
一気に1人で食べ切れる量では無いだろう。
スプーンは違えど、
彼が手を付けた穴だらけのプリンを食すのには抵抗がある、美味いには違いないのだが、何故ここで好きでも無い男の食いかけを味見せねばならぬのか、とは神経質に考え過ぎか。
しかし、勧めるものを頑固に断るのは忍びないので、
息を止めて3つの瓶から各々一口ずつ、
目にも止まらぬ早さで大至急食べる。
思えば力石の時も、彼が残したプリンを食べる羽目になったし、男にとってプリンとは、同じ釜の飯を食うような禊の儀式であるのか。
それで食べ終わった瓶は、
駅のゴミ箱にでも捨てるよう提案したのだが、
持ち帰りますと彼は言い張る。
箱の中で安定感も無いのにそんなもの、
途中倒れないか、持ち帰ってどうするのだ、
瓶は鉛筆立てにでもするのかと問うと、
それも良いですねとあっさり答える。
そのうち電車は乗り換え駅に到着する。
両手で箱を持っておる為、手を振る事の出来ない彼と別れ、私は心からホッとする。
彼とまた会いたいとは思えないが、
力石の時だって、
最初から好きだとは思わなかったのだから、
もう少し仮交際を続けて見るべきなのかと思い悩む。
そして気分転換も兼ねて、私の友人に
マーロウのプリンを食べたぞと、メッセージを送る。
彼女は檀れいに似ておる上にスイーツ女子だ。
彼女からはすぐに、
マーロウの瓶は、洗ってお店に返せば10円になるよと返信が来て、ああと思わず声を出す。
それで坂東忠信は瓶を手放さなかったのかと、腑に落ちる。
10円が目的であれば何たるセコさではあるが、
ここまで徹底しておるならば逆に見事で天晴れだ。