結婚相談所から申し込まれた7才歳上、坂東忠信に似た会社員の方と、週末は彼の誕生日を兼ねて逗子葉山でデート中であり、夜は力石と会う予定。

ナビ通りに走ったのに道を誤ると、
車内に若干変な空気が流れるのは何故なのか。
ナビに、間違えてかたじけないと喋るボタンがついておれば、謝るナビに車内の雰囲気も少しは良くなるものを。
※これにもかたじけないボタンはついてはおらぬ
坂東忠信は、マーロウの電話番号を入れてナビを検索し直す。
順調に走りだして到着した店は物凄い混雑。
並んでから駐車場に停車は出来たが、
店内はショーケース前に人の列が出来ており、
ケースの前でプリンを選んだらそのまま先にあるレジで会計を済ませて持ち帰るという仕組み。
店内にはカフェもあるが満員な上に順番待ちで、とても座れる様子は無い。
購入したら、車内で食べますか。
と坂東忠信に言われて、まあ仕方あるまいと頷き、持ち帰り用の列に並ぶ。
ショーケースの中は、豊富な種類のプリンが沢山鎮座しておる。もはやプリンでは無く、瓶に入った色とりどりの美しいオブジェに見える。
この内の1つを選ぶのかと、じっとケースを睨み悩んでおると、坂東忠信が、
1つと言わず、一人3つ位は食べられるでしょう、などと言うておるから、
随分太っ腹な事を言うなと思い、がめつさを隠してオホホと上品に笑う。
そして段々と順番が近付いて来た時に、
あれれと思う。
坂東忠信は、何故か私を先に行かせたがる。
私が後ろに下がり、彼を先にした筈であるのに、気付けば彼はまた私の後ろにおる。
先に行く者が会計をする事になるからかと、
要らぬ憶測が頭を過ぎるが、恐らく考え過ぎだ。
そして順番が近付いて来た時に、
私は左上のプリン1つのみと決めたがここでしばし手洗いに行っても良いか、
と訪ねてみた。
すると彼は、
注文しておくので勿論どうぞと答える。それで、
ああでもお会計までに戻れなかったら困るよな、と問うてみると、坂東忠信は、
ああそうですね。とぼんやり頷く。
払っておくので大丈夫、では無いのが気になる。
それで、私は、うっかり引いた。
気を付けていたのに、心が引いてしまったのだ。
もう、手洗いに行くのは止めにして、
自分の順番が来た時にプリンを1つ、店員に頼むと、すかさず坂東忠信もプリンを3つ一緒に注文してくる。それで、また引く。
コーヒーも飲むかと彼に聞くと、
飲みますと頷くのでカップのコーヒーを2つ頼む。
そして私が先頭のまま、レジに進む。
合計金額を告げた店員の声に、坂東忠信はボーとして財布を出す様子も無い。
代わりに私が、
会計は別々で頼む、と店員に申した。
坂東忠信は少し驚いて私を見ておるが、私はどうせ意地悪だ。
だって、この時の正解は、ここは僕が払います。の一言では無いのか。
誕生日とは言え、会ってたかだか3回目だぞ、
人様に飯をご馳走になったら、お茶位返すのが日本人としての義理人情じゃあ御座いませんか。
私はそうやって生きてきたから、それは私だけの物差しかもしれぬ。
しかし、どうしてもそこは譲れない。