結婚相談所から申し込まれた7才歳上坂東忠信に似た方と週末は逗子葉山でデートをする。
ドライブというより、
アトラクションのような旅路を経て日影茶屋に辿り着き、ヨロヨロと車を降りてほっとする。
スーパーカーのスピード感とはまた違った意味で、
動体視力は鍛えられるが三半規管は弱り果て、
うずまき管の渦が増えているような気さえする。
しかし、しかしだ、美味い食べ物があればすぐに回復出来るだろう。
店は趣があり、店内は天井が高く古く艶々の木材がふんだんに使用され、ハイカラさんが少尉と席におってもおかしくない様な大正ロマンの雰囲気だ。
席に通され窓から外を眺めると、
そこには竹藪の手前に玉砂利が敷かれ、
傍には赤い長椅子に赤い番傘の日本庭園が見える。
ひかげ弁当は予約しておるし、
今回は私がご馳走すると、改めて坂東忠信に宣言した後で、何か飲み物でも頼もうと彼を促す。
本日は彼の誕生日であり、
私が払うと決めておるから心置き無く注文出来る。
大した金額でも無いのに、相手が払うのかもと顔色を伺いながら遠慮する飯は本当に不味い。
坂東忠信は食事中も大変喜んでおる。
婚活で出会う女性は皆揃って財布の口が固いのだと言う。
つまりケチだと言いたいのであろう。
それはそうだ、
金遣いの荒い女だと思われない為に皆慎重であるし、
恐らく、どういう訳だが、結婚に至るまで男より1円でも多く金を使うものかという謎の意地がある。
自分が大事にして貰えるのか、見極める定義は
男が自分に使った金額では無いとは思うのだが、
資本主義において物の価値はどうしたって金で表され易いから、そこを目安にするのは仕方が無いのだろう。
結婚した時から、法的には互いの収入の半分が自分の物となるのだからこれこそ究極の折半だ。
だから食事代のような端金など、本来どうだって良いのにな、
と、もう少しで言いそうになるが、
まあこんな話しは下衆であろうなと思い黙る事にする。
坂東忠信は食事しながら、ただニコニコとしておるから、美味いか、そうかと満足する。