結婚相談所から申し込んだ11歳歳上の力石徹に似た方との初デートで結婚前提のお付き合いとなる。しかし結婚相談所とはそういうものだ。
次回週末は、どこかドライブに行こうと力石に誘われる。お見合い含めて会った数は4回目であり、ドライブとか世間的には少し早い気もするのだが、人生のスケジュールは己で決めるものだと腹を括る。
そして力石に、行く場所を決めてと言われてとても悩む。
あまりアウトドアな性格では無い私は、行きたい場所と言われると非常に困るタイプである。
幼い頃は家族で良く車に乗って旅に出掛けた。
父は方向音痴であったから運転中もよく道を誤り、野生の勘なのか道に詳しい母が、ここは右だ左だと、曲がる直前で指示を出す。
道が解らずもうすっかり母の言うなりと成り果てた父が、女王様に言われた通りに急に右、急に左、時々上にハンドルを曲げるものだから、田舎なので人はいないが非常に危険。
母は、取ってこいと投げた棒まで父に取りに行かせそうな様子、父は必死。傍目から見るとまるで女性様と下僕のお遊びのようだ。
当時は車の中で普通に煙草を吸うような慣習があり、夏の高速道路などは異常に混んでいる為、父が我慢出来ずに窓を開けて煙草を吸う。
暑さと煙草の煙に完全やられて父以外は皆ゲーゲーとビニール袋にたまらず吐く、吐いている者を見てまたつられて吐く、まるで感染病にかかった集団のような怪しい車内であったが、今となっては懐かしい思い出である。
それで、私は大人になるとドライブだけが好きになった。
例えば目的の場所までのドライブは楽しいのだが、現地に到着すると少しだけ、こっそりではあるががっかりする。
あの怒号が飛び交う幼少期の車内はトラウマになってもおかしくないと思うのだが、私は幼い頃の旅行と言って懐かしく思い出すのが間違いなく、あの地獄のような車中である。