3ヶ月前に結婚相談所から申し込みがあり、
その後交際終了にされたトム・クルーズと友達となり、表参道のラルフローレンに行く。
大きなソファに君臨するよっちゃんは私に気付いたようであるが、目が合ったのかは定かでは無い。
トム・クルーズは店員と何かのスポーツの話しで夢中になっており話し込んでおる様子。
更衣室から現れたよっちゃんの姫は恐らく30代と見受けられる、私から見たら憧れのパープルレーベルの服を手にして悩んでおられるようだ。
小柄であるが欲しい服のサイズが無いようで、女性店員があちらこちらに走り回っておる様子、あれは近隣のラルフローレンに走りに行くのだろうと思うておると姫が、
どちらにしようか悩むう。と可愛らしく言う。
よっちゃんは真っ直ぐ前だけを向きながら、
全部買ってあげるよと言うが、まずはお主の着替え終わった姫を見ろ、まるで1日だけのシンデレラだ。
姫は気にせず、えーいいのう?と嬌声を上げる。そうか、姫もよっちゃんの事など見ていない。
しかし何でも買って貰えるのは嬉しいよなと、私は一人遠い目をする。
自慢であるが、私もあの姫の歳の頃は同じ様な思いをした、物と交換に男に魂を売り渡したから、そこから抜け出すのに酷く苦労した。ああいう男と付き合うと、我慢とか諦めとかいう言葉が遥か彼方に吹っ飛んで行き、一般的なサラリーマンが灰色で退屈に思えるのだ。
しかし相手があれだけ肥えていたら考え物だなと、よっちゃんを見る。
肉団子みたいなよっちゃんは、携帯を見る訳でもなく真っ直ぐ前だけを見ているが、あれはもしかしてマジックで目を書いているだけで本当は寝ておられるのか?
しかしだ、あの肉付きなら糖尿病で性欲も無く、ベッドで相手をしなくても済むのかも知れぬな、などと他人の夜の生活まで妄想をしている所に、
トム・クルーズと会話していた店員が、
ここはまだ空きそうに無いので、試着は男性用の更衣室でも良いかと私に伺いを立ててくるから、諾と頷く。
私のワンピースはPOLOだから3万5千円也。
ここは0が1つ異なるパープルレーベルに道を譲ろうでは無いか、涙。
男性用更衣室は1階にあり、その隣のリビングには黒いソファと暖炉がある。
ワンピースに着替えて台の上に立ちクルクル回ったりしておると、トム・クルーズがこれも着てみたらと、カジュアルなニットとパンツを勧めてくる。
どれを着ても可愛い服だからどうしようかと悩みながらソファに戻ると、気の利く店員によりカフェテーブルにはコーヒーとチョコレートが用意されているから、全部買おうと潔く決意する。
着替えでボサボサになった私の髪を、ブラシ位持ち歩かないのか触るよと言いながらトム・クルーズがザクザクと手で直す、彼は思い出したように優しい時がある。
女性が男の髪を触るのは母性だと言うが、その逆は何だろう、この場合はペットと同類か。
似合っていたから僕がプレゼントするよ、とトム・クルーズは紅茶が埋まるほどの砂糖を入れながら言うてくれるが、私は彼に媚びるような嬌声を上げたく無い。彼に何かをされる度に期待をする位なら、ただ良き友でいたい。
私の目的は結婚であるからここで足を取られておる暇は無い。そんなに器用では無いのだから。
某が払うので大丈夫である、お気遣いありがとう。
と私がシャキっとカードを出すとお会計は12万円。
やはりワンピース位は買ってもらっても良かっただろうか。