3ヶ月前に結婚相談所から申し込みがあり、
その後交際終了にされたトム・クルーズと食事に行き車で送ってもらう。
ボロいBMWに乗り自宅まで飛ばす道のりはあっという間で名残惜しく、赤信号で止まるのが少しだけ嬉しい。
この道は良く通るんだと彼が言うから、私も普段この道を使おうなどと考える。
彼が、今週末はここで待ち合わせようと言うので、
合点承知と答えて手を振り車の扉をグッと開く、と、急に腕を掴まれ引かれるから何かと振り向くと案外近くにトム・クルーズの顔があり、不意をつかれて思わずおののく。
すると、彼はフイと私を掴んだ手の力を抜き、乗り出していた体を運転席に収めるとそのまま、バイバイと軽く手を挙げてハンドルを握る。
車が走り出すまで見送りはしたが、
あのような事をされると頭の中でもしもパターンが繰り広げられて妄想が膨らみ出す。42歳の妄想は結構エグいぞ、まったくやめてもらえないか、
フガーと呼吸を整えてからフラフラと自宅に帰る。
モヤモヤしながら週末になり、マンション前で待っていると爆音と共に真新しい488GTBが現れる、トム・クルーズのFerrariは太陽の光を反射して眩し過ぎる程鋭い輝きを放つ。
助手席に乗ろうとするとまだ足元には白い紙が敷いてあり、この車の隣に人を乗せるのは初めてなんだと素敵な笑顔で言うから、此方もつられてニコニコする。
例え嘘であっても嬉しいものだ。
表参道までミサイルのように一気に駆け抜け、ラルフローレンの駐車場に入るとエンジンを止める、その彼は、
格好良いなんて言葉は言われ慣れてマスみたいな横顔をしておるので褒めるのは一応止めてはおくが、素敵過ぎるぞ抱かれたい。
しかしデレるとこの男、どういう訳だか察知する特殊能力の持ち主であるから、悟られないよう凛として姿勢も正しく地球に降り立つ。
店内に入り、トム・クルーズを見るとすぐ彼の元に男性店員がやって来る。女性用のワンピースを探しているのだと言うと、どうぞ此方へと2階の女性用売り場に案内される。
生憎ラルフローレンの女性用試着室は使用中のようだ、その横にあるリビングの白く大きなソファーの真ん中には、デップリと太った男が山の主のように陣取っておる。
見れば、肩までの茶髪で派手なサマーセーターを着ており、顔はよっちゃんに似ているが笑顔は無い。
分かるだろうか、あの伝説のたのきんトリオの、幾分太った後のよっちゃんだ。
彼に似た男がギターも弾けないくせに、
威圧的なオーラを放ってソファーに埋もれておる。