大手結婚相談所から申し込みのあった
1歳年下笑顔がトム・クルーズ似の年収8000万の経営者と初デートの帰りは自宅までの道で彼を撒く。
恵比寿のスカイウォークはどういう訳か
独り身の男がこんにちはと声をかけてくるエリアである。
こちらは大枚を払って相談所に登録し出会いを真剣に求めておる身であるというのにお主らは、目星を付けたら言うだけ無料でお手軽でよっぽど己に自信でもお有りなのかと内心思うがどうなのか。
今日はトム・クルーズから電話が掛かってくる約束であるそしてこの辺りで私の挙動をトム・クルーズが依頼した興信所が見張って居るやも知れぬのに、
こんな時に限って2ヶ月置きに現れるブルーの男が私の目の前に登場するからガクッとため息が出る。
ブルーの男はいつもスカイウォークに現れ最初の内は、
こんにちは忙しいですかと問うてくるだけであったのだが徐々に付いてくる距離は長くなっている。
だがブルーの男に丁寧に挨拶されたのに無視して恨みなど買うのは本末転倒であるから、
急ぐので相済まぬと顔も見ずに言うと、
何でと言いながらずっと付いて来て私の前に回り込んで進路を塞いでみたり後ろからピタリと付いて話し掛けてみたりまるで蛇のようにかなり執拗いが何がしたいのか。
そして男はいつもブルーの上着を着ており、ファンには申し訳無いが白い顔はどこか羽生結弦に似ている、
いや羽生結弦はキリリと氷上を踊って舞うから素敵なのであってあれで42歳の知らぬ女の周りを、何で何でと4回転していたら誰だって寒くて青ざめるであろう兎に角恐い。
私はスカイウォークの途中の切れ目で動く歩道から下りて真ん中の動かない歩道を靴音も高く歩き出す、
するとブルーの男は動く歩道をそのまま早歩きで前方へと急ぎ出した、恐らく私の先回りをする気であろう向かう先は決まっている、しかし私は真ん中の歩道で人混みに紛れるとこっそりスカイウォーク左手に寄り、
その壁にある重い扉をグイと両手で押した。
扉の外には階段があった、
下に続いておりそれは線路沿いの車道へと繋がっている。
私は後ろの気配を気にしながらも、
何故連日普通に自宅に帰れないのだとブツブツ文句を言いながら階段を下るがヒールが高いので転んだらここで死ぬなとヒヤヒヤしながら覚悟を決める。