後輩に紹介された広告マンと会う日の天気は土砂降りであった。
私はMaxMaraの紺のワンピースと
GUCCIの9cmを履くが酷い雨に酷い湿気でオマケに昨日は仲間との飲み会で調子に乗って日本酒の飲み方を講釈した為二日酔いで気分は冴えない。
広告マンから指定された焼き鳥屋に向かうが、先祖代々から受け継がれた方向音痴のせいで店までの道を迷いに迷いこの呪われた血を恨みながらも定刻より遅れて到着する。
洒落た店で広告マンが待つ個室に案内されるがその前に御手洗の場所を店の主に聞く。半解凍したような濡れた髪をせめて何とかしたいのだが、御手洗のあまりの薄暗さに鏡の持つ意味とは何かをヤホーでググりたい気分になる。
予約された個室の扉を開けると端に広告マンがいた。その存在感は天井からのライトを浴びて輝かんばかりで何とも言えず魅力的である。
私の持論では最初のデートは男性側が緊張していなくてはならないが、今回状況は圧倒的に私に不利で気分は落ち込む。まずはビールで乾杯するが昨日飲み過ぎた為殆ど飲めず食も進まず、こんな日もあるさともう一人の私が肩を抱く。
広告マンは元々あまり話すタイプではない。私の話しを興味深く聞くが、彼が好きな漫画の話で何か感想を求めると凄く考えた後に当たり障りのない意見を言うといった具合だ。なんというか心の交流が量れない。
焦った私は彼がビールを一杯空けた頃に、過去に忘れられない恋愛など無かったかを問うた。よく会話に困った時に使う距離を縮める為の常套手段だ、まあ興味もあったが相手の心を安易に無理矢理こじ開ける。
すると彼はしばし黙り、
『そう言った話は自分の友人にするような話であって女性の前でするものでは有りませんよ』と答えた。
いやまったくもってその通りであるが、絶不調な私の気分は全然冴えない。