後輩の紹介で知り合った広告マンより次の土曜日に会えませんかと連絡がきた。
LINEは相変わらず心拍のようなタイミングで私を呼ぶ。最近は広告マンが好きな特定の漫画を私も読みその感想を逐一彼に報告する。
『これはまるで太宰治の本を読んだごときである』だとか、『これは人間として極まりなき悪を表現した素晴らしい物語である』だとかを簡単な内容で送るとまた翌日、何処まで漫画を読み終えたかと尋ねてくる。
私は彼のペースに巻き込まれ無いように恵比寿駅前のRAFEELに入会しヨガで瞑想するようになった。
骨や関節の正しい位置や隅々までほぐす事に集中している時間だけは様々な雑念から解放される。そして岩盤浴を終えてジャグジーに入り汗を流して帰る頃には必ずLINEに連絡が来ている。
広告マンからは来週の土曜日に会うまでには漫画のシーズン3まで読み進めて感想を聞かせて欲しいと書いてある。もはや学生の宿題かと不満に思うと同時にそこまでなら金曜日には読み進められるであろうというスケジュール感が備わってきているのが恐ろしい。
ゴマ様からは相手を妄想させて振り回せと習ったからLINEの返信は自分のペースを保っているつもりではあるが、もはや気付けば私の方が振り回されてはいないか。しかし良く考えてみれば当然だ、彼は相手を振り回せと社員教育により新人の頃から叩き込まれているのに対してこちらはゴマ様から最近習ったばかりの付け焼き刃な上にそもそも今現在漫画を読む事に人生の時間を費やしているのだ、
いやこうしている間にもレポートを書きおこして会った時に述べる為の感想を纏めておかねばならぬ、早速帰って大至急携帯に充電が必要だ。