駅で広告マンと別れた後、紹介してくれた後輩と私は兼ねてからの打ち合わせ通り二人で近くのカフェに入る。
腰を落ち着けた所で後輩に、
彼はよもや大層遊んでいる方ではないかと問うた。
リスのようにクルクルと目を輝かせると後輩は
『そんな人では無いですイタリア語の教室でも至って真面目です』と断言するが遊んでいるの意味が分かっているのか。
『遊んでいたとしても昔の話ですよ、もういい歳ですから』と続いたので遊ぶという質問に対して彼女は抜かりない。
駅まで三人で歩く道で広告マンは
『僕より幾つ年下ですか五つ位ですか』と私に質問した。こうして外で歩いている時の方が店より遥かに親しげだ。
先程の店で彼は38歳だと言っていたから本来私が1つ年上だが彼がそれを知る上での冗談かと思ったから、年の差はほぼそれ位であると笑いながら答えた。
しかし二人で入ったカフェで後輩が『ところで先輩って何歳ですか』と質問してきた。そういう事なら私の年齢を広告マンも知らないであろうから私は嘘をついたことになる。
どう訂正すべきか思案しながら後輩と話している内にLINEに呼ばれて画面を見ると広告マンからお礼メッセージが来ている。
後輩もいる前だから後で良いなと無視してコーヒーを飲んでいるとすぐまたLINEに『あれまだ既読になりませんね』と広告マンから催促の文字。
私は無言で画面を伏せると後輩にこの早すぎるメッセージを伝えるべきか悩んだ。しかしこの無邪気な後輩がイタリア語教室で元気に何を言うとも限らない。
私は広告マンの端正な顔と気配を思い出し果たして私の手に負える案件なのかと一人悩む。