富士山 2022 ② | Never stop exploring

Never stop exploring

きょうも どこかで よい旅を

寝れてないのに朝まで待つより、早く出て登ってしまって降りた方がいい。


そう思った私は、2:45 真っ暗な中を恐る恐る出ていった。


何も見えない。


使い慣れてないヘッデンを装着し、昼間賑わっていたバスターミナルを歩き始めると、遠くに動いてるヘッデンが見えた 良かったーやっぱり仲間がいるじゃないの と思ったら 登山者じゃなかった


ゴソゴソと起きてた部屋の御近所さんはどこへ行ったのか、週末で賑わっているはずの富士山だが、この時間に登っている人たちはもっと上にいて、五号目を丑満時に出発するものははかなり少数派らしい、、。登山口で、唯一会えた職員のおじさんに挨拶し、女が暗闇を1人で歩くというのに全く止める要素もなく、はい、行ってらっしゃーい とな。

行く女も女だが、止めない様子のおかげで腹はすえた。

通常、夜間登山なんてありえないが、富士山だけはむしろ夏の風物詩である。

お祭りは24時間営業なのだろう。


歩き出した。こ、こわい! 行くも振り返るも真っ暗闇である。本気の肝試しだ。

一瞬、インドでの早朝野犬襲撃の記憶が蘇って怖気付き、引き返そうと思った。

が、今引き返してどうする?道はわかりやすいはず、すぐに他の登山者に会えるはず、動物はいないはず と言い聞かせ、歩みをすすめる。

もしもここでヘッデンが切れたら終わりだ。こんな時間に出るとは予定しておらず、予備を持ってこなかったことを思い出す。

やがて不安をかき消すかのように天気は穏やかで、左手眼下には富士吉田市の夜景がキラキラ瞬き、頭上には星、右手に富士のシルエットがあることに気づいた。



怖さと不思議な安心感とが入り混じり、この暗闇に今、たった一人の自分と、眠っている街の光と、いにしえから届いた星空と、富士山だけしか存在しない贅沢を味わった。うわ〜と声が出る。


都会に暮らしていたら絶対に経験できない初めての出来事であった。


慣れたと思ってもまた恐怖は襲ってくる、吉田ルートは初めてではないが、昔に登ったきりでコース状況はうる覚え、6合目のスタート地点までは50分もあるはずだ。


整備された広い砂利道を終え、森の中に入って行くと、怖い。と思った矢先、わずかに動く明かりが見えた。人だ! もう嬉しすぎて遭難者の面持ちである。砂漠でオアシスに出会ったようである。一人の登山者らしき人とすれ違う。なぜか満面の笑みで挨拶したい気持ちなのに、クールな相手に合わせて無言で通り過ぎる。人に飢えていた私とは違い、相手は街中を歩くのと同じなのか、もしくは戻るということは具合が悪かったのかもしれない。


その直後、今度は遠くの方にポツリまたポツリと動くヘッドライトが現れ始め、山頂に続く山小屋の明かりも見え始めた。

この旅一番の恐怖が終わった!ここからはもう大丈夫だ!


3:25  6合目のチェックポイントで検温してリストバンドをザックに付けてもらい、地図もくれた。孤独だった暗闇から現れた係員の方々が、妙にあたたかく思える。


転々としていた灯りはやがて一本の登山道に集まり始め、私もその中に加わる。

キラキラと瞬く、街、星、ヘッドライト、快適な気温。もう10年ぶりに夜間登山をすることとなったが、その特別感を思い出した。


本当に来てよかったと すでに思った。

後ろに続く他の登山者も、嬉しそうに全く同じことを言っている。

一人の私にとっては、ここで共に登る他人の皆さんが仲間である。


気づけば、西の空がオレンジ色になり始めた。



4:07 七合目花小屋着

8合目あたりでご来光の時間になり、はっきりとした日の出はなかったものの、赤く染まる山中湖や雲のグラデーションを見て元気が出た。



夜景と同じく、日の出もやはりいいものである。富士山天体ショーだ。




5:20 太子館

5:56 白雲荘


スタートは快適だったが 八合目からがきつかった 

ふーふー うーうー しんどい しんどい 

岩場がきつい 一歩ずつと言い聞かせるが 一歩一段のきついことったら まるでホノルルマラソン35キロ地点である。


心が何度も折れそうになる。

今思うと、先を急いで自然とペースが速くなっていたのだろう。

行きは意識して止まらずゆっくり、帰りは休憩を多めに という鉄則を忘れていた。


キツさは変わらず、ちょっとだけ気持ち悪い気さえしてくる。

完全にフルマラソン中状態で、ウィダーインゼリーなどの飲み込みやすいものだけ取り込む。


元祖八合目 6:20


頂上の鳥居が見えてからがとにかく長く感じる。

左手にはすでに登頂を終え降る人々の列。う、羨ましい。


何度見上げても果てしなく遠く見えたのに、一歩ずつでも動いていれば必ず到達するということ。


10回くらい来ているのに、何度登っても、鳥居をくぐる瞬間は感無量だ。



7:55  頂上



心地よい天気に恵まれ、達成感と幸せを噛みしめた。わずか20分ほどの滞在時間の中で唯一したことは、デッキに寝転がって青空を仰ぎ、トップガンのサントラを聴いた。これが自分の心もちと最高に合った。


8:30 ストックを出し、下山開始




下りは、昔とは比べ物にならないくらい余力があった。

しつこさもハードさも変わっていないのだけど、自分のレベルが上がっていた。


残り1時間くらいのところでガスの中に入った。自然のミストに全身が優しく包まれて心地よい。ゴアテックスの帽子からポタポタと雫が落ちる。


やがて五合目の森に突入し、潤いのトンネルの中を清々しく歩く。


平坦になればもうこっちのもので、足取り軽くゴールした。11:15



もう最高の気分だ。


出発前の迷い、不安、、期待。

行動してみたら、そこには変わらずどっしりとした富士山が待ってくれていた。


何度挑んでも畏怖の念を抱くのは、一筋縄ではいかない厳しさと、美しさと、豊かさに圧倒されるからだ。


降りた先の本当のゴールは ふじやま温泉で。


浸かった瞬間、あああああ〜!日本てなんて素晴らしいのだろう!私はなんと幸せなのだろう と 全身で富士の恵みを享受し、感謝した。


見えない力がみなぎる。たった24時間で生まれ変わった自分がいた。


恐るべしふじさんパワー。ありがとうふじさん。