バリウケでガテン系な俺の悩み日記
芸術家的素質と創造そのものとのあいだには、やはり径庭がある。 こういった事情にもまして、シャルリュスの才能に寄与するナルシシズムが、一面では彼が創造者たることにマイナスに働いたのだという仮定も成り立つ。 確かに、日常の生活では虚しく失われていく個性の実感を、イメージの世界で回復するのが芸術本来の役割だとプルーストは考える。 だが、こうした、他に還元できない自分自身のヴィジョンと感受性を重視する考えを裏打ちし補完する形で、プルーストには己れを空無化する思想があることを、ここで思い出す必要があるだろう。 一九〇四年刊行のラスキンの翻訳『アミアンの聖書』の序文では、原著者の意見を紹介しながら「詩人は一種の書記であって、自然が口述するとおりにその秘密の多かれ少なかれ重要な部分を書き取る人間である」として、「芸術家の第一のつとめはこの崇高なメッセージに、自分で作り出したものを何一つ付け加えないことである」(cs、11)と論じる。