ビデボでゲイとの出会い
「えん?」「だから忘れてもちゃんと手もとに戻る」「なるほど」佐伯さんは笑った。 「そうかもしれない。 だけどめずらしいね、きみの歳で縁なんて言葉が出てくるの」祖母が云っていたのを思いだしたのだ。 人と人も、人と物も縁でつながっている。 大切にすればするほど縁は深まる、とかなんとか。 説明したかったが、ぼくはすでにめろめろだった。 ペンを内ポケ″トにしまった佐伯さんがコーヒーでも飲もうかと誘ってくれたけれど、明日までに書かなければいけないレポートがあるからと云って断った。 それ以上そばにいたら、身体のぐあいが変になりそうだったのだ。 「そうか、じゃあまた」まっすぐな背中がこっちを向いた。 大きい人は歩く効率もいいのか、あっという間に遠くなっていった。 ずっと見送っていたけど、いちども振り返らなかった。 一分かそこらのあいだ、自分だけに向けられていた彼の言葉、しぐさ、笑顔。 その晩は眠れなかった。 なんども思い返し、最後は必ず去りぎわの背中に行き着いて打ちひしがれた。
「えん?」「だから忘れてもちゃんと手もとに戻る」「なるほど」佐伯さんは笑った。 「そうかもしれない。 だけどめずらしいね、きみの歳で縁なんて言葉が出てくるの」祖母が云っていたのを思いだしたのだ。 人と人も、人と物も縁でつながっている。 大切にすればするほど縁は深まる、とかなんとか。 説明したかったが、ぼくはすでにめろめろだった。 ペンを内ポケ″トにしまった佐伯さんがコーヒーでも飲もうかと誘ってくれたけれど、明日までに書かなければいけないレポートがあるからと云って断った。 それ以上そばにいたら、身体のぐあいが変になりそうだったのだ。 「そうか、じゃあまた」まっすぐな背中がこっちを向いた。 大きい人は歩く効率もいいのか、あっという間に遠くなっていった。 ずっと見送っていたけど、いちども振り返らなかった。 一分かそこらのあいだ、自分だけに向けられていた彼の言葉、しぐさ、笑顔。 その晩は眠れなかった。 なんども思い返し、最後は必ず去りぎわの背中に行き着いて打ちひしがれた。