しかし、これだけでは、事件の動機や背景について何も語られていないに等しい。 男性同性愛者は被害を警察に届けられないと加害者たちが考えたのは、なぜなのだろうか。 彼らの認識については、次節であらためて取り上げるが、深夜の公園に同性愛者が集まり、襲われても警察に被害届を出せないだろうと考えた背景には、社会のなかにホモフォビアという意識が浸透していることがある。  ホモフォビアとは、一九七二年にジョージーワインバーグによってつくり出された概念である。 ワインバーグは、ホモフォビアについて「同性愛者と親密な関係になることへの恐怖であり、同性愛者の場合には自己嫌悪感として現れる」と述べ、その原因を「多くの西洋諸国で同性愛そのものが悪しきこととみなされ」、そのような態度がいまだ問題視されていないことにある、と記している。 つまり、ホモフォビアとは、同性愛者に対する嫌悪や恐怖心であり、病んでいるのはレズビアンやゲイの側ではなく、同性愛を嫌悪し恐怖する社会の側なのだ、とする概念なのである。  少年たちは、同性愛者であること自体がやましいことであり、それゆえに深夜の公園に集まり、被害を届け出ることができないと考えた。 このようなとらえ方こそが、同性愛そのものを異常や変態とみなす社会の反映であるといえるだろう。