もちろんゲイのなかにもアナルーセックスをする人たちは存在する。 けれどもアナルーセックスをしない人たちもいる。 にもかかわらず、そうしたゲイの性生活のごく一部でしかないアナルーセックスがゲイ全体を表すものとしてみなされてしまったのである。  エイズーアクティビズムが生んだもの さて、もちろんエイズの問題が、同性愛者にもたらした否定的な影響を軽んじることはできない。 けれども、日本の文脈では、エイズ問題は少なくとも男性同性愛者を可視化する役割を果たしたともいえる。 もう少し正確にいうならば、エイズ予防啓発を促進し、HIV感染者・エイズ患者への支援をおこない、さらには行政に対策を講じるように働きかけるエイズーアクティビズムは、ゲイのムーブメントを活性化する触媒となったといえる。  一九八〇年代前半までは、前述のように北アメリカなどのエイズ症例や情報について耳にすることもあったが、それでも日本の男性同性愛者たちの多くにとっては、エイズはまだ「対岸の火事」でしかなかった。 しかし、八〇年代後半に入ると、日本でも「一号患者」が報告され、また、エイズは海外からやってくるというイメージから、ゲイーサウナには「外国人の入店お断り」という店舗まであらわれた。 ゲイの人々のあいだでも感染に対する「恐怖」が蔓延し、それによって感染した人を遠ざけたり排除するという動きも出てくるようになった。 八〇年代ではまだ行政による予防啓発支援やHIV感染者・エイズ患者に対するケアがほとんどおこなわれていなかったなかで、こうした危機感や恐怖を自分たちでなんとかしなければならないという問題意識から、少しずつエイズの予防啓発活動や患者のケア活動が組織化されるようになつたのである。