『恐怖』をキーワードに、西洋の近代美術作品を集めた『怖い絵展』
ドイツ文学者でエッセイストの中野京子のベストセラー『怖い絵』を元に、約80点の絵画・版画が並びます。
※取材で伺い、会場内は特別の許可を得て撮影しています。
ヨーロッパ文化の核となっているギリシャ・ローマ神話や聖書の物語を主題とした作品。
右の作品は
ヘンリー・フューズリ
《オディプスの死》 1783-84 油彩・カンヴァス
ウォーカー・アートギャラリー、リバプール国立美術館

オディプス王といえば、父親を殺害し母親と結婚するだろうと予言された人物。スフィンクスの謎かけを解いたことでも有名です。
自分の罪を恐れたオディプス王は自ら両目をつぶしさまよいますが、最後には二人の娘に看取られ死んでいきます。その場面を描いた作品です。
この章の代表的な作品は左側の
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
《オデュッセウスに杯を差し出すキルケ―》
1981年 油彩・カンヴァス オールダム美術館

ギリシャの英雄オデュッセウス(英語:ユリシーズ)、トロイヤ戦争が終わって故国に帰る途中に様々な試練に出会います。
イタリア西海岸にある島へと立ち寄った一行。この島には魔女キルケ―の館がある。妖艶な美女であり、美しい声で男を館に招き入れては、酒を飲ませその魔法で動物に変身させていた。
絵の中の4匹の豚は、変身させられたオデュッセウスの部下。鏡に映った男がオデュッセウスです。解毒剤を飲んでいた彼は動物の姿に変えられることもなく、魔法が効かない彼にキルケーは好意を持ち、ついに2人は恋に落ち1年ほどをともに過ごしたそうです。
なんかすごい話です・・・(^^;
今回の展覧会、学外員が考えたキャプションがキャッチ―で面白いんです。例えば・・・この左の作品には

こんなキャプションが

初めて美術館を訪れる人にも、芸術鑑賞の楽しさを感じてもらいたい、美術を好きになるきっかけにしてほしいという思いが込められているそうです。
それにしても「お前はもう死んでいる」って。(神谷明さんの声が・・・幻聴かしら・・・)
第2章 悪魔、地獄、怪物
死後のイメージや、人間を悪の道に誘い込むという伝統的な悪魔のイメージを取り上げた作品。

第3章 異界と幻視
日常とは違う世界、異界。そこからやってきた不可思議な存在、幻想的な存在を集めています。

右の作品。
子供服を持ち逃げしようとしているのは妖精~

第4章 現実
我々が生きる現実世界。そこに表れる様々な不条理、事件事故、戦争に貧困などを題材にした作品。

第5章 崇高の風景
他の章がモチーフ・主題によって作品を集めているのに対し、この章は理念的なもの、荒々しい風景の中に崇高という概念を見出す歴史的な物語や風景画などを集めています。
右の作品は
ジョン・マーティン《ベルじゃザールの饗宴》
1821年 油彩・カンヴァス
ワズワース・アテネウム美術館
右上には三日月と輝く星が!きっと何か意味があるはず!と学芸員さんに質問したら「そう思います、が、まだ調べられていません」との回答。
解釈がついていないものについては、自分なりの想像力を膨らませて妄想できるところも、芸術作品鑑賞の楽しみの一つだと思います!
第6章 歴史
展覧会最大の注目作がこちらです
ポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》
1833年 油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー

権力者の息子と結婚させられたジェーン・グレイ。若干16歳で、イギリス史上初の女王となります。しかし時は16世紀、王侯貴族がカトリックとプロテスタントに分かれて抗争を繰り広げていました。ジェーンはわずか9日で王の座から引きずり降ろされ、半年後に処刑されてしまいます。切ないお話しです( ;∀;)
絵画・版画とも、とにかく美しい。
その美しさに心惹かれじっと見ていると、「え?ちょっと怖いんですけど」・・・と、背筋がぞっとしてくる。
音声ガイドは吉田羊さん。今回も必聴です。解説を聞いて初めて「こんな意味があったのか・・・きゃ~(^^;」となることも。
猛暑の折、芸術鑑賞で涼しくなってみるのもいいのでは?
「怖い絵展」は兵庫県立美術館で
9月18日まで開催です。