田舎には「回覧板」という高度な情報伝達手段があり、月2回ほど行政からのお知らせ文書がバインダーに綴じられて隣の家から回ってくる。
内容を確認したら速やかに次の家に回すことになっている。
通常、重要な文書は綴じられてなく10枚ほど有るお知らせ文書のうち半分はこの集落では絶滅した子供向けのものだ。
したがって住民は表面の一枚だけチラッと見てそのまま次の家のポストに放り込んでくるのが通例となっている。
『猫は屋内で飼いましょう、近隣の迷惑になります』
今回の表紙にはそんな行政からの注意文書が綴じられていた。
フフッ。
これは、たぶん、おそらく、絶対、お隣の奥さんによる作為、文書の配置操作だろう。
私が全部見ずにスルーすることを承知してるから表面にしたのだろう。
一匹残った嫌われ猫(翔子、通称ショコ)を放し飼いにしてから暫くの間は近所の話題(良いことも悪いことも)に上がっていたのだが、私が放し飼いにした理由が「”あれ”と二人きりで居るのは気が狂いそうで耐えられない」、そう言っていることを汲んでくれてのことだろうか最近は何も猫について触れられなくなっていた(私の耳に入らないだけかも知れないが)。
それで安心していたと言うわけでもないが、忘れていた。
それを思い出させてくれた今回の回覧板であった。
問題は相変わらず存在していたようだ。
そこで、敷地境界に水入りペットボトルがズラッと並べられたお隣への進入経路の対策を行うことにした。
裏口門扉の隙間をトタンで塞ぎ、開けっ放しにしないようにした。
本気を出せば出れるけどね、私に似て本気は無いでな”あれ”には。
右手がショコの遊び場とトイレ場になっているだろうお隣の敷地である。
その後、今まで傍若無人に悪事を働いていただろうショコはどうしているのか?
作業場の私の椅子に陣取って不気味な姿を晒している。
人相の悪さは際だっており怖いものがある。
地べたにしゃがんで悪事を企んでいることもある。
柿のヘタを畑に投げてやったらそれを必死で追いかけていってやんの。
おまえは犬か、、、。ハハハ
こうやって君のことをぼろくそに書いているけど。
でもね、
本当は君のことが好きなんですよ。
君が我が家にやってきた日、あれからもう14年近くになるのですね。
その間に私達の生活は大きく変わりました。
君のことをとても大事にしてくれた妻はもう居ません。
妻の介護に疲れて君達3匹を息子のアパートに疎開させたこともありましたね。
私はとても君たちのお守までする余裕がなかったのです。
美咲はそのアパートで亡くなり、鉄も今年君の元から去っていきました。
残された君はどうやって生きていけば良いのか分からなくなったのでしょうね。
気色の悪い声で鳴くのもその不安な精神状態だからなのでしょう。
ずっと室内に閉じ込められて美咲や鉄と毛を繕い合って暮らす人生だったのですから。
君が来るまでは猫好きだった妻に従って増えていく猫を拒みはしませんでしたが、いくら長寿の君たちといえども私より先に逝ってしまうのですよ。
家族を亡くすのは悲しいものですよ。
可愛かった美咲や鉄と同じく不細工で性悪な君も可愛い家族なのですよ。
君には新しい家族は増やしてやれませんが、今からでも猫本来の生き方をしていってください。
ゆっくり可愛がり(いぢめ)続けてあげますからね。




