田舎には軽トラが多い。

夕刻の散歩ですれ違う軽トラの多さたるや2台に1台だな、丁度今の季節スーパーの鮮魚売り場に並ぶサンマの数より多い。

田舎のおっさんはスーパーでサンマを買って軽トラで家に帰っていくようだ。

この日本独特の乗り物は田舎のおっさんの血の通った足になっていて、靴を履くように軽トラにいつも乗っている。

3/11後の民主党政権時代にいっとき自動車道が無料化されたことが有り、そのときの様相たるや、高架の自動車道が軽トラで溢れ渋滞してしまったそうだ。

サンマを買ったおっさんはサンマが痛んでしまうとやきもきしながら、ただだから乗らないと損だと入ってしまった自動車道上で途方に暮れていたそうだ。

散歩途中に有るMさんの家には3台の軽トラが駐めてあり、過去に履きつぶした軽トラの残骸も隣に2台置いてあるのでさながら軽トラ販売センターの様相であるが、それに乗るのは一人暮らしのMさんただ一人だけである。

複数台を同時に運転してるサーカスのような光景は見たことはないので、いったい何をもってして3台の軽トラが必要なんだろうと不思議に思っている。

確かにMさんの軽トラの仕様はそれぞれダンプ・四駆・でかキャビン、と異なってはいるが基本的には荷台が付いた二人乗りトラックであり、1台に集約出来ないものかといらぬ心配をしてしまう。軽トラ販売各店の綺麗どころにそれぞれ諦めきれない魅力があったのだろうか?

Mさんは特別な方だが普通の男もほとんど軽トラを持っていて私のように持っていない男は極めて希だ。

この軽トラというものに乗ると(hさんの”円周率号”に良く乗る)正に靴だよ、と思えるのだ。

普通車の感覚でドアを開け閉めすると引きちぎってしまいそうにペラペラで質量感がまったく無い。

外部の音を遮断するという概念は備わっていない。

操作系は軽く子供でも十分運転できる、(中学生の頃”一万本のトウモロコシのk君”が軽トラで通学しており、教師が良く借りに来た)。

万一タイヤを側溝に落としてしまってもこの軽さなら自力でなんとかなりそうな安心感がある。

それでもエンジンがかかれば5秒で狭いキャビン内には空調が行き渡る。

そんな感じでサンダルのような気楽さで且つ快適なのである。

軽トラの走行感覚は独特であって私は大好きだ。

軽トラは基本的に後輪駆動(FR)である。

二駆と四駆をレバーで選択できる。

運転席は前輪の上にある。

空荷のときは軽いケツを自由自在に振り回せるのだ。

これはスポーツカーの感覚なんだよな。

砂利道なんかでは非力にもかかわらずドリフト走行が楽しめる。

自分は行きたい方向を向いた前輪上にいるが後輪も後ろではなく横に一緒にいる。

こういう車はいつの間にか無くなってしまったんだよな。

この特性を上手く使うと狭い山道で熊に遭遇した場合にクルッと180度方向転換して熊の鼻先で停止し、四駆に切り変えフルスロットルで逃げ切るという芸当が出来る。

いつかどこかの高速道路で天井が崩壊したとき落ちてくる天井から逃げ切って助かった車が有ったじゃないか(あれは本物のスポーツカーだったんじゃない、あんたのは54馬力しか無い紙細工のような軽トラなの、熊にぶつかって怒った熊に一瞬で殺されるか、転落して動けないところをなぶり殺しにされるかのいずれかじゃない)。

いや、私は運転テクニックには自信が有るから生き延びられる方に0.8票(1票では無いのか)。 

こんな楽しいものに田舎のおっさんたちは乗っていたんだ。

そりゃ肌身離さずいつも乗ってるわけだ。

私も欲しいが駐めておく場所が田んぼしか無い、周囲に農業へのやる気の片鱗と見られるとマズイから絶対に買わないでおこう。