あなたが僕を笑わせてくれたことは車にまつわることが多かったよね。

結婚前に乗っていたあなたの赤いミニカ。

そのオイルをあなたは自分で交換したんだと、少し自慢げに僕に言ったよね。

でも、ミニカを走らせながらその自慢話を聞いていた僕の後方視界は白い煙で何も見えなくなっていたんだよ。

あなたはお酒を注ぐように、なみなみいっぱいオイルを入れたんだよね。

僕はあの頃車の運転は上手だったんだよ、やはり赤いミニカで微妙なアクセルワークを使って段差を乗り越えて見せたよね、大きなショックは感じなかったはずだよ、なのにあなたは「そんな乱暴なことをこの子にしないでよ」と、助手席で怒ったじゃないか。

車にも生き物のように接するやさしい人なんだと思っていたが、どうも違っていたんだね。

あなたが家のポルシェ(スバルともいう)に乗るようになったとき僕は助手席で驚いたんだよ。

あなたのアクセルワークはオンとオフしか無かったんだ、中間域が存在しないはっきりした性格だったんだね。

止まるときにはブレーキがオンになるんだ。

「ブレーキを使わずに止まろうよ」

そう言う僕に「止まれないわよ、バカじゃないの」

そう言って意味を解さなかったよね。

社協に勤めていたときあなたが乗ったy市の車が信号待ちでうるさいと市民から市役所に通報されたじゃないか。

僕がどうしてそんなにエンジンを吹かすんだよと咎めたら「だってクーラー効かないんですもんあの車」と言ったよね。

止まっていてもアクセルはオンにしていたんだね。

それで僕はやっと分かったんだ、

あなたは段差を静かに乗り越えるようなことは出来ないタイプの人だったんだと。

それがあなたの世の中の見かただったんだ。

物事は進むか止まるか、好きか嫌いか、善か悪か、

はっきりした指向性を持った生き方だったんだね。