町が出してくれる"獣害補助金"というのが有る。

国や県が行う不可抗力によって被った収益減少を補填してくれる補償制度では無い。

"獣害補助金"とは獣に果敢に戦いを挑む人だけにくれる奨励金や報奨金の意味を持つ。

町の猟師には有害獣を減らした褒美として1匹につき1万円が支給される。

その認定には駆除した獣の尻尾を切落として役場に持参するという生首方式をとっている。

鉄砲を持たない農民には獣害防衛に使える器具の購入費を出してくれる。

町のホームセンターにはそれらの商品が町指定品として売られている。

電気柵・防獣網・弓矢・花火・爆竹・こけおどし等、多岐にわたる。

農民は獣害防止計画書に図面を添えて町の産業課に申請する。

承認されると農地1筆につき10万円が奨励金として給付される。

町は農民が農耕を放棄してしまわないよう給付金で食い止めようとしているのだ。

ほとんどの農民は既に戦意を無くしているのだが、くれるものは貰っておこうとなる。

それが電気柵や網で囲われた農地ばかりが目立つ里山風景を作り上げてしまった。

その網の中で働く農民の姿は動物園の中の動物そのものに見える。

町にはそんな好戦的施策を良しとしない反戦派農民も存在しており、

かたくなに自然との共生共存を謳った昔ながらの農業を続けている。

私としては何が正しいのか分からない。経験値乏しく農業に確たる信念もない。

獣たちはそんな農民模様を観察しながら次の収穫時期を待っている。