梅にはその人の影響も有ったと思う。
桜の頃におかしくなり「もう私の好きな仕事しかしない」と宣言して一旦受け入れられた約束を会社は反故にした、
私が勤め先に辞表を出し、翻意して(翻意させられた訳ではない)協力会社に出向した先にその人は居た。
もう20年以上も前の話だ。
お互い以前から知っていたその人物は誰もが認める好漢であり、私より丁度一回り年上であった。
毎日その人と組んで業務を行っていた。
休日の無い働き方はその前から始まっており、そのときから軌道に乗った。
皆1ヶ月休み無しで働きっぱなしが当たり前、元旦以外でその年の最初の休日が4月になってしまったというような、猛烈な働き方をしていた。
お互いに相棒と通じ合っていた、戦友とも言えるその先輩が梅雨が近づくと何故かソワソワするのが分かった。
雨が降る日は明らかに嬉しそうに見えるのだ。
ある日その謎を先輩自身が語ってくれた。
”苔”なのである。
自宅の裏庭に苔が育ち緑の絨毯となる風情を待ち望んでいたのだ。
私はそのような日本風の風情を楽しむ域には達しておらず、皆が嫌う梅雨時にウキウキする先輩を可笑しがったものだ。
その感覚が何となく解ってきたときに梅の鉢を買ったのだ。
しかし可哀相に、苔にはほど遠い環境に置かれた梅は枯れてしまった。
今度は何としても良い環境を作ってやりたい。
