「伊勢湾内で一番速い船はどれなん?」

と、素人くさい質問を向けるとどの船の船頭も、

「そりゃあ~海上保安庁のだろうがよ~」と笑いながら言う。

日の出と共に一斉に「鳥羽一郎」が鳴り響く。

https://www.youtube.com/watch?v=CFhHmOMVA1Y&list=PL3J0VgXIOOvxXfy4dbGlldeX0GW888Gl0&index=2

「なんだよう、一番ビリッケツじゃね~かよ~、今日はボーズだな~」と、

またまた素人が素人くさいグチをたれても全船皆ゆっくりと横一線で燃料を節約している。

素人釣り師は暇にまかせて機関室のハッチを開け覗いてみる。

巨大なカタツムリが冷えきって沈黙しているのが見える。

釣り場が近づき「兄弟船」は3番に入った。

一斉に黒煙を吐き数千馬力が炸裂し船はすっ飛び始める。

悲鳴のようなタービン音に耳をふさぐ。

後は書くのも恐ろしや。

場所取りレースは船頭達の真剣勝負だ。

カタツムリは真っ赤に光り、エンジンよ割れよとばかりに潮風と燃料をぶち込む。

釣り人は振り落とされないよう必死に耐えるしかない。

今の瀬渡し船はそんなもの。

のんびり漁師やってた人も都会で競争馴れした客を相手にするようになって変わってしまった。

まるで決死隊のようなありさま。

 

♪波の谷間に命の花が~ 二つ並んで散ってゆく~

 兄弟船は~ 親父のかたみ~

 型は古いが しけにも弱い

 俺と兄貴のヨ~ 悪夢の揺り籠さ~♪