「俺が山田の幸せを奪っちゃった。
あいつはこれから幸せになれるのかな」
「大丈夫だよ。幸せは自分でなるもんだ。
誰かにお膳立てしてもらうもんでも、
誰かに奪われるものでもないよ」
俺の口から自然と出てきた言葉は、
啓司を慰めるための詭弁でも、
教師としてでも俺自身に言い聞かせるためでもなく、
ただ本心だった。
「幸せは自分で……」
そう繰り返し、啓司は目を瞑りしがみつくように
俺の腰を抱きしめる。
籠の中で大事に育てようと、
どれだけ目の前にレールを敷こうと。
踏みにじり歪ませ痛めつけようと。
最後に道を歩きどこかへ辿り着くのは自分の足だ。
たとえその足を折られても、
それでも歩み続けるか否かは自分の意志ひとつなんだ、
そうだろう。
佐々木なの 青春と部屋 SIDE:H #3 高校教師 森久志の結婚
写真:カズキヒロさん