「みなさん、3日間の選考会、お疲れ様でした」
華奢な体に無理やりジャージを着せたような、そんなアンバランスな見た目に反して、透き通るような、落ち着いた声だった。
「ああ、自己紹介しないとね。私は解析班のミオです。先ほどオシオコーチから、極めて簡潔な説明をしていただきましたので、私の方で補足させてもらいます」
オシオがチッと舌打ちした。
「今回の選考会は、私たち日本バスケットボール連盟でも初の試みとして行いました。皆さんの事前に皆さんの遺伝子を取らせてもらい、また皆さんのあらゆるプレーの映像もAIで解析させてもらいました。あ、もちろん君たちの保護者には許諾をもらってるわよ」
…もったいぶるなよ。
「今すぐここから立ち去りたい」という衝動をなんとか押さえ込みながら、ショウはミオを睨みつけていた。
「そうね、回りくどいわね」
ミオと目が合った気がした。
…ちっ
まるで心を読まれたかのようなミオの言葉と、その視線からつい目をそらした自分にショウは舌打ちした。
「一言で言うと、現在の科学でできうることを総動員して、あなたたちの『将来性』を予測させてもらったってこと。オシオコーチが数値って言ってたのは、その将来性をデータ化した数値のことね」
「はい、ミオコーチお疲れ様でしたー!」
オシオが被せるように野太い声を響かせた。
やらやれ、とオーバーにアクションしてミオは一歩下がり、オシオにスペースを空けた。
「ま、おおかたそんなところだ。で、我がニッポンに必要な将来性…もっと言やぁ、まずはアジアでは負けなしになること。それと1年に1人はNBAに選手を送り込むこと。それを実現するために必要なもの、お前らわかるか?」
オシオはチラッと横目でショウを見た。
「あー、シモン、お前わかるだろ。言ってみろ」
「おー、オレすか?」
シモンがニュッと立ち上がった。
「しなやか」としか表現できない動き。
長い手足。逆三角形の体躯。控えめに言って、惚れ惚れとする身体の持ち主だ
「まあ、ズバリ……『高さ』でしょ?」
文字にすると軽薄なセリフだが、彼の独特の雰囲気からか、嫌味や浅はかさは感じられなかった。不思議な魅力の持ち主だ。
フン。
オシオは鼻息で返事をしたようだった。
「なぜそう思う?」
「だって明らかに『高いだけ』のヤツ、いますもん。イデンシさんがそいつらに『今は』っていう将来性?をキチンとつけてくれること、信じてますよ」
「もういい、座れ」
へいへい、と頭をかくようにシモンはラダを沈めた。
それを見届け、オシオが再び口を開いた。
「まあ、おおかたそんなところだ。ボールハンドラーにも世界基準のサイズが欲しいんだよ。お前らもこの前のワールドカップを見ただろ?日本の弱点は……」
「もう帰っていいすかね?」
体育館に低い、刺すような声が響いた。
立ち上がったショウを、皆が一斉に見た。
「選考理由?とかも聞けたんで。もういいすよね。あざした」
ショウはもうどうでも良くなっていた。
身を焼き尽くすような怒りの激情に、ポツンポツンと落胆や呪いが染みを作っているようで吐き気がした。
オシオが何か言い、何人かの笑い声が聞こえたが、もうどうでもよかった。
体育館の重い鉄製の扉を開け、廊下の暗闇に逃げ込んだ時、後ろから声がした。
「ショウくん、待ちなさい」
つづく