20XX年。NASAは宇宙研究にいよいよ煮詰まっていた。新しく世間に発表できることが何もない。こうなったらもう、宇宙飛行士の試験が全部不合格だった人間を宇宙に行かせ、何て言うかデータを取ってみようと考えた。


 NASAの粋な計らいに、すぐに候補者が現れた。


 候補者の名前は賀画 有凛(がが ありん)。

 日本人女性で40歳。今回の試験挑戦が20回目だったという。


 過去19回のチャレンジはずっと不合格で、今回も不合格だったわけだが、それが晴れて合格となったのだ。


 彼女が宇宙飛行士を目指したきっかけは、

亡き父が残した「1度、空の上から自分の家を見てみたかった」という遺言だった。


 半年後、スペースシャトル発射当日がやって来た。

 賀画 有凛(がが ありん)は、当日までにマスターしておかなくてはならない事が沢山あり、半年間訓練に励んだが、NASAの思惑通り何一つできるようにはならなかった。


 果たしてシャトルは打ち上げ成功した。


 20XX年ともなると、もうシャトル打ち上げが失敗する事などないのだ。


 大気圏を抜け、安定した飛行モードに切り替わったスペースシャトル内で、賀画 有凛(がが ありん)は生まれて初めて外から地球を観た。


 「お父さん、私、だいぶ遠くまで飛んで来ちゃった。さすがにここからでは家の場所はわからないよ・・・」


 NASAは事前に賀画 有凛(がが ありん)の許諾を得ており、彼女の涙声のつぶやきをリアルタイムで同時通訳公開していた。

 NASAの思惑通り、全世界が感動の涙に包まれた。


 賀画 有凛(がが ありん)は父の夢を叶える事はできなかったが、自分も偉業を成し遂げた人類の1人になれたことを実感した。


 果たしてシャトルが宇宙ステーションにドッキングした。


 賀画 有凛(がが ありん)は、ステーションのスタッフに訊ねられた。


 「どう?初めて地球を観た感想は。」


 NASAだけでなくJAXAもFBIもCIAも、そして全世界が彼女の次の発言に聞き入った。


 「日本に・・・日本に県境なんて無いんですね!」


 その想定外のスケールの小ささに、全世界が爆笑の渦に巻き込まれた。


 この「県境なんて無いんですね」発言はその年の流行語大賞に選ばれ、帰国した賀画 有凛(がが ありん)は一躍時の人となった。


 NASAは後にこう発表した。

 「彼女の〝県境なんて無い発言〟が巻き起こした爆笑の間、世界から国境も消えた」と。


おしまい