ただ毎日退屈だった。
空には「雲」という不安定な浮遊物体があるだけだ。
灰色と白。
雲の隙間から見る世界は、青、緑、赤、茶…色鮮やかだった。
私は世界に興味を持った。
毎日毎日隙間から世界を眺めた。
ある日私は、生命体が「果物」というものを食べて暮らしていることを知った。
そこで、空から果物を落として見ることにした。
まずはオレンジを落とした。
オレンジはある少年の足元に落ちた。
少年は転がったオレンジを手にとって、
「おはよう。」
と声をかけた。
次の日はレモンを落とした。
レモンはある少女の足元に落ちた。
少女は転がったレモンを手にとって、
「おやすみなさい。」
と声をかけた。
私には分からなかった。
その次の日はイチゴを落とした。
イチゴは新郎の足元に落ちた。
新郎は転がったイチゴを手にとって、
「ありがとう。」
と声をかけた。
ふと前を見ると、そこには白くて、大きなドア。
気になってそのドアを開けてくぐると、
真っ逆さまに落ちていくことに気づいた。
驚く間も無く、落ちていく。
妊婦の元に生まれ落ちた赤子が1人。
妊婦は赤子を抱いて、
「おめでとう。」
と声をかけた。
掴んでひっぱる。
そうするとちぎれることなくしわしわになってついてくる。
その中の装飾を一つ指で掴んで、ぷちっと取ってしまえば
それは輝きを失って、やがて埃を被る。
それを元の場所に戻すには針と糸が必要だ。
そして失った輝きは元には戻らない。
歪な角度で少し不恰好に、元の場所で鈍く光る。
空は遠い。月は遠い。星は遠い。
なんてこともない。
いつもの海で、いつもの岩の上に座って、いつものように海を眺めていた。
今日は少し波が高いようだった。
海風が心地よく私の髪を揺らす。
漁から帰ってくる船がちらほら見える。
私は知っている。ここに何もなかったことを。
私は知っている。ここにあったものが、昔、失われてしまったことを。
海岸で遊ぶ子供達の声は絶えず
海の中で平穏に暮らす魚達の影も見え
海鳥は悠々と空を飛び、時折鳴く。
「今はこんなに見えるし、聞こえるのに。」
私は知っている。結局忘れられずに、人は、生き物は、ここへ戻って来ることを。
そして、私もその一人であることを。
8月15日。
鐘がなるのを待っている。