<地獄の穴2>
その赤は何かが燃えている火の揺らめき。おそらく溶鉱炉だったと思います。そこはこことは違う岩の中のようなとても閉鎖的な場所でした。そしてその中にとても体の大きい裸の太った人がいて手にトンカチを持ち、火の中にくべてあった真っ赤に燃える板状の何かを取り出し叩いていたのです。
「カチン、カチン、カチン、カチン。」
赤い贅肉男は、たたいた板を水につけます。そして、また溶岩のような火の中に板をくべ、取り上げるとまたたたき、また水につけ。何回かそれが続いたかと思うと、今度はその板を砥石で研ぎだしました。
「シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ」
研ぎ終わった刃の流れを確かめる赤い贅肉男。その肌は油でも塗ってあるかのような光沢で、そのおぞましい肉のひだがからは想像できないほど一連の動作が素早く、手際が良く見えます。
しばらくすると立ち上がりとどこかへ行きました。そして、すぐに戻ってきたかと思うと、今度はその手に手綱が握られおり、その手綱の先には両手を後ろ手に縛られた褌をまいたちょんまげ頭の男がいました。
赤い贅肉男は、後ろ手に手を縛られた人の髪の毛をつかんで、そして無造作に何かの台の上にその人を投げつけます。男の人は何の抵抗もせずその台の上に上半身を乗せひざまずきいています。「何が起こるんだろう。」私は息をひそめて見守っていました。すると赤い贅肉男はおもむろに手に持っていたナタを振り上げ、うつ伏せの男の人の首筋に振り落としました。
「ゴツッ」
鈍い音とともに赤い鮮血が飛び散り男の人の頭部が桶の中にボトリと落ちましす
「キャッ」私は小さく声を漏らしてしまいました。その刹那、赤い贅肉男は私のほうを振り返ります。
赤くでこぼこの顔。くりぬけたような眼。おぞましい形相。そして、額から突き出た角。それは紛れもなく赤鬼です。
私は、立ち上がり一目散に岩窟を抜け蔵を飛び出ていきました。
「見つかってしまった。見つかってしまった。」私はそのことで頭がいっぱいになり、夜まで憂鬱に過ごしていました。
夕食のとき、いとこが私が蔵から出てきたのを見つけ、おじいちゃんに告げ口をしました。予想の外、じいちゃんは私を叱りませんでしたが、その蔵についていろいろ話してくれました。
「ああ、あそこに子供が入ったらいかんよ。おじいちゃんも子供のころから入るなって言われてた。
江戸時代、この辺には罪人の処刑場があって、先の山すそを流れる河原で多くの人が首をはねられたんだそうな。そして、その罪人の牢屋があの蔵の奥にあるんだ。明治になってそういう習慣もなくなって一時は酒蔵に使ってたんだそうだが、なんか罪人のうめき声がするとかなんかで使われんようになった。いづれは埋めようとも思うが、まあそのうちにな。」
「あらやだ、そんな気持ち悪い。なんで早く埋めなかったんです?」
母が訪ねた。
「地下水が出るからな。ちょうど地層の境目かなんかで山のいいわき水があそこから流れてくるんだよ。ほれ、この水だってあそこからの水だぞ」
「そうなんですか?」
以前から、おじいちゃんの家の水はおいしいといっていた母なのでそれ以上言及はしませんでした。
翌日おじいちゃんといとこでその岩窟へ行ってみました。
「ここがそうだぞ」
そこには紛れもない私が昨日迷い込んだ岩穴がありました。しかし、それは蔵の奥からほんの5mくらいのところで終わっています。私が入った穴は、10mも20mあるいはそれ以上に深かった穴でした。
「結局、私が入った穴はあそこだったのだろうか?」
しかし、私はあの日あの小さな穴から見た光景が「地獄」なのだと今でも信じています。