ダンボール
私が、凄いスピードで運ばれてた。
道路脇の、メタリックな壁に映り込んで流れる夜景を見続ける。
高速道路の光がビヨビヨ伸びてた。キラキラと残像が流れている。
『助手席に乗ってる人ってさ、なんか、【運ばれてる】よな。すげぇ滑稽!』
運転席で笑いながら友達が笑う。
『じゃあ私も今、運ばれてるんじゃん。』
『そ、あんたを運んでるんだね。』
左の壁が消えて、夜景が一気に広がり加速した。
やたらと音質のいいスピーカーからアイルランド語が溢れ、響く。
最新カーナビのマメな道案内が合間に邪魔する。
平日の夜中、知らない土地、知らない道路。友達まで巻き込んで、私、何してんだろ。自分が本当に滑稽な存在に思えてきた。
『あのさぁ、別に、この辺りで棄てていいよ~。』
マニュアル操作で終始動きっぱなしだった友達の左手が一瞬止まる。
『はぁ?ダンボールは黙れよ。』
『届けなくていいよ。』
『届けるから。』
ネオンが細かい。かすんだコンタクトレンズが光の丸を崩す。
性能の良いカーナビが、次々と新しいルートを告げる。
『るせ、このナビ、』
友達はがしゃんと音を立てて乱暴にナビを消した。
アイルランド語だけが静かに車中に溢れる。
『ありがとね。』
私はあなたを運ぶことは出来ないけれども。何も与えられないけれども。
とりあえず、ありがとうって言いたくなったんだ。
私がもうすぐどこかに、届く。
バフルバブル
体から痣が消えない。
痛々しい。
同情を呼び込む私の汚いアシ。
感情を抑え込む私のうそぶいたノウ。
愛情を誘う私の淋しいクチ。
現状を嘆く、先走り慰めあう、気違った発言。
どれもこれも一時的。
どれもこれも瞬間。
誰が救う、私を救う、私は救う、誰を救う?
助けたい、助けたい。
ああ、夏の初め、目の前に溺れる何かに手をさしのべようとする手を、振り払わ
れた。
だったら、いっそ、グッと力を込めてお前を沈めてやるよ。
さっさと溺れろよ。
プハ。
「プ八」
と、言いそうだった。
耳に入ってくるアーティストのお話に、プハ!!である。
咳き込むフリして、電車の中で、実は笑う。
ボクハ、ニヤケる。
ニヤケタ顔を隠そうと、「ゴホン」と、くしゃみ。
せめて、電車を降りたら、ボクを笑わせてくればいいのに。
あの暗い夜道を、歩くとき笑わせてよ。あの暗い家路で微笑ませて欲しいんだ。
メランコリックロック
コップに水をくみ、右足をを引きずり、私の横に置いてあったメガネを掴み、右足を見ながら、顔をしかめながら、引きずりながら歩く。
しかめた顔は、少し笑っているような顔にも見えて、奇妙な表情。
今すぐに、また笑った顔を今すぐ見てみたいと言ってしまいたい。
笑わない父の笑顔は、どこ行った?
私と母と、弟と父、たった四人の問題。物が壊れる毎日。
冷たい感情が溶けて流れだした液体が、家中を浸す。ぴちゃんぴちゃん。
気温30℃の蒸した空間で、窓も開けずに、私はドアから出て行く父を見つめた。
目から涙が自然と沸き上がった。
英歌詞のメランコリックロックから、nothing とだけ聞き取れたものだから、余計に涙が溢れるばかり。
メランコリックロックの中のお兄さんは、何を訴えているの。
カラオケ
あなたのことが忘れられないから~♪気付いてしまったぁ~♪あの日の雨♪
隣で私の歌を聴いてる友達の、心の中を想像する。→『ああ、この歌詞、ぴった
り。まだサトルくんのこと忘れられないんだね、この子。 可哀想に!』
これだから、彼氏と別れた直後のカラオケは面倒(`ε´)
友達の心理を推測しながら、私とサトルの関係を間接的に誇示している。
私は平然と歌い続ける。
あなたにぃ~会いたいからぁ~♪
ちっ。サトルが恋しいんじゃないの、歌を歌っているだけ。
たまたま私とサトルを描いてしまったような歌を、歌っているだけ。
ケイタイゲンダイ
朝、目覚めたらケイタイ電話がベッドの中で折れていた。
私の胸の下で、私の白いケイタイは工業製品らしからぬおかしな角度に曲がっていた。
画面は真っ黒で、寝ぼけた私の顔がうっすらと映りこんでいた。
どうやら夜中、メールを打ちながら眠ってしまったようだ。
誰に、何のメールを作成していたのかが思い出せなかった。
ケイタイの電源をぎゅっと押す。
反応はまったくなくて、真っ黒い画面のまま、何も表示されなかった。
「うわ、死んだ。」
私はそう呟くと、ぽいっと布団の上に投げ捨てた。
その後すぐに向かったバイト先でぼおっと考える。
さて。
どうするか。
どんなに強がっていても、所詮は現代っ子。私は、誰の連絡先も分からなくなったことに不安をおぼえた。
今日遊ぶ友達の連絡先は控えてあることは、不幸中の幸いだった。
でも。
疎遠になってた高校時代の友人は、どうしよう。
メールだけでつながっていたあの子たちはどうなるの?
メール、こないけど、くるかも、曖昧な人たちがあっさりと削除されていく感覚に戸惑う。
連絡もとれない。
なんにも分からない。
どうしよう。
時間がたつにつれて、段々、どうでも良くなってきた。ここで切れた人たちとは縁がなかったことにしよう、と。
人間なんて、どうにかなるでしょう。
現代と自身をバカにした考えが浮かぶ。
徐々に、自前の楽天的な性格が、爆発する。
午後、新しいケイタイを買う。
データはやっぱり全部消えているといわれ、やっぱり「アイマイな人たち」は、午後4時、正式に私の中から消えた。
番号もアドレスも、変えないで済ませる方法はいくらでもあったけど、「アイマイな人たち」よりは、財布の中の夏目漱石が大事だったから。
友達と話す。笑う。歌う。食べる。はねる。走る。あがる。飲む。叫ぶ。怒る。なく。
私はいるから、いいじゃない。
ただ横で、嬉しそうに話している友達の顔を見たら、そう感じたんだ。


